研究課題/領域番号 |
16K07520
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
中島 敏幸 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (70314945)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロコズム / 生態系 / 進化 / 大腸菌 / 適応放散 |
研究実績の概要 |
本研究に先立ち,生態系における進化を理解するために,藻類 (Micractinium sp.),細菌 (Escherichia coli),繊毛虫 (Tetrahymena thermophila)からなるモデル生態系の長期培養を13年間行った.この生態系の長期培養の様々な時点で分離した生物の単独および共培養を行い進化過程の詳細を解析している.本研究では,特に細菌の進化に焦点を当て,特に形質の変化とDNAレべルの変化との関係に焦点を当てた.2017年度においては,培養開始から6年,8年,12年,13年後に分離したE. coliの形質の多様化に焦点を当て,特に,全ゲノムの配列を決定した6年後の分離株 15 株(2016年度にシーケンシング実施)の形質とDNA配列との関係を解析した.この15株の主要な形質としては,(1) 藻類と細胞集塊を形成し共生関係を形成する タイプ,(2) 藻類が産生する未利用資源に適応しているタイプ,(3) 細胞がフィラメント上に長くなり繊毛虫から の捕食を避けるタイプ(藻類との細胞集塊は形成しない)が確認された。15株のゲノムDNA配列における変異の 解析の結果,E. coli 祖先株に比べ30から66の塩基置換や挿入/欠失が確認された.現在これらの変異と形 質との関係を文献等の先行研究を用いて整理しているが,とくにフィラメント上に長くなるグループの株の全て(上記の3)は zipA遺伝子に変異を持っていた(328アミノ酸中の55番目のグルタミン酸がストップコドン).zipAは E. coliにおいては必須遺伝子だが,それにもかかわらず生存できる理由や、他の遺伝子座における変異とどういう関係で致死に至らないかが今後の課題となった.また、このグループは何れもイソロイシン要求性であり,共通する変異としてileX (イソロイシンのtRNA遺伝子)が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に先立ち,藻類 (Micractinium sp.),細菌 (Escherichia coli),繊毛虫 (Tetrahymena thermophila)からなるモデル生態系 (マイクロコズム)の長期培養を13年間行った.2016年度開始の本研究課題において,様々な時点で採取し凍結保存された群集サンプルから藻類と細菌をクローンとして分離した.具体的には,以下に示すような進捗状況にある. (1)細菌の進化と生態 培養期間6年,8年,12年,13年のマイクロコズムから採取した細菌(E. coli) のクローンとしての分離・純化を完了した.さらに,(a)6年の30株のうち15株の全ゲノムDNA配列の決定し,文献データを用いて形質との関係を解析した(継続中).(b)8年 (50株),12年(50株),13年(50株)における分離株の生理学的・生態学的性状を調べた(一部継続中). (2)藻類の進化と生態 6年(30株),8年 (50株),12年(50株)、13年後(50株)の藻類のクローンとしての分離・純化を完了した.さらに,8年 (50株),12年(50株)、13年(50株)における分離株の生理学的・生態学的性状を調べた(一部継続中).
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今後の研究の推進方策 |
(1)細菌の進化と生態 6年の30株のうち15株の全ゲノムDNA配列の決定し,文献データを用いて形質との関係の解析を継続する.この点に関し,2018年度には大腸菌の細胞遺伝学を専門とする仁木宏典教授(国立遺伝学研究所)と塩見大輔准教授(立教大学)から研究協力を得て,増殖率や被食率に影響を及ぼす細胞形態(フィラメント等)の分子遺伝学的機構を明らかにする.(b)8年 (50株),12年(50株)、13年(50株)における分離株の中から特徴的な株の全ゲノム解析を行う.これにより,マイクロコズム中の細菌の適応放散過程を明らかにする.とくに,藻類との共生の進化に至る方向とスカベンジャーとしてデトリタスから資源を得て天敵(繊毛虫)には食われにくい形質(フィラメント細胞)へと分化する過程をDNAレベルで明らかにする計画である. (2)藻類の進化と生態 6年(30株),8年 (50株),12年(50株)、13年後(50株)の藻類の分離株の生理学的・生態学的性状の調査継続し,藻類の適応放散過程を明らかにする.とくに,細菌との共生を可能とする形質(細胞集塊を形成するタイプ)の進化の方向と,繊毛虫と細胞内共生する形質(細胞集塊を形成しないタイプ)の進化の方向へ分化する過程を形質レベルで明らかにする.予算に余裕があれば,DNAレベルでの分化過程の解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた細菌の全ゲノム解読の外部機関への分析委託は,解読対象とする分離株の基礎的性状を調べることに時間がかかり,決定できなかったので,次年度まとめて分析依頼することとした.結果として,まとめて出す検体数が増えたので単価が下がるという利点もあった.従って,次年度に繰り越す額は2018年度に同じ計画に基づいて執行する計画である.次年度は,培養期間のより長い分離細菌の全ゲノム解析と形質との関係,特に生態的性質との関係を解析する.
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