これまでの研究で,藻類・大腸菌・原生動物の3種から成るフラスコサイズの生態系を作成し,約13年間培養した.この間、藻類・細菌間の共生と藻類・原生動物間の細胞内共生が進化していることが示唆されていた.本研究では,特に藻類と大腸菌の共生関係の進化に焦点を当て,長期培養後半(6年から13年目まで)の長いタイムスケールにおいて共生がどのように進化しているかを両種の生理・形態的形質,生態的相互作用,大腸菌のDNAレベルの変化のそれぞれの側面から解析し,以下のことを明らかにした. ① 培養6年ではイソロイシン要求性を持つ大腸菌分離株が見られたが,8年及び13年目の大腸菌分離株にはチロシンやシステイン要求性という新たなアミノ酸要求性が確認された. ② 培養6年・8年・13年目の大腸菌分離株を各15株ずつ計45株の全ゲノムDNA配列を決定し、遺伝子レベルの変異の情報を得て,分子系統樹を作成した。その系統樹ではアミノ酸要求性や形態的特徴がクレードごとにまとまっており,特徴的な形質と変異した遺伝子群との間に関係が示された. ③ 藻類と大腸菌は細胞集塊を形成し共生するが,集塊形成により両種いずれの生存率も高まること,藻類単独よりも大腸菌と共に集塊形成したほうが全体の集塊サイズが大きくなることが示された.さらに,分離された大腸菌株のあるグループ(6から13年にまたがる)は単独では通常の形態だが藻類集塊の間隙に入り成長するとフィラメント状に細胞が伸びて藻類細胞と絡み合うことが分かった.さらに,藻類と集塊形成する大腸菌分離株がアミノ酸要求性を持つことから,両種間のアミノ酸の授受が関与している可能性が考えられる. ④ 一部の大腸菌変異株には藻類との集塊形成する能力を持たず単独培養下でもフィラメント状に伸びる形質のグループが存在した.これは,生物の死骸などを栄養資源とするニッチに進化したものと考えられる.
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