研究課題/領域番号 |
16K07523
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
竹内 剛 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (40584917)
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研究分担者 |
藪田 慎司 帝京科学大学, 生命環境学部, 教授 (50350814)
高崎 浩幸 岡山理科大学, 理学部, 教授 (70222081)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チョウ / 配偶行動 / 認知 / 複眼 |
研究実績の概要 |
性認識の不確実性を仮定した誤求愛説によって、これまで上手く説明できなかったチョウの配偶競争を統一的に説明することに成功し、その成果は二編の論文として学術誌に掲載された(Takeuchi et al. 2016; Takeuchi 2017)。さらにその研究内容を、16th Congress of International Society for Behavioral Ecology、第63回日本鱗翅学会大会、および日本動物行動学会第35回大会で発表した。 また、誤求愛説の前提となる、飛翔中の相手の性認識の不確実性の程度を確かめるための行動実験を行った。翅の色に顕著な性的二型を示すジョウザンミドリシジミの縄張り雄に、雄の翅で作ったモデルと雌の翅で作ったモデルをモーターで回転させた状態で提示した。その結果、縄張り雄は、雄の翅で作ったモデルに対してより強く反応する傾向が見られた。本種の翅表は、雄は青緑色に輝くが、雌は暗い茶色であり、縄張り雄は雌雄を識別しているのではなく、単純に目立つモデルに強く反応したと考えられる。この結果は、誤求愛説の前提を支持するものである。 本課題のもう一つのテーマに、配偶縄張りを持つ種は配偶者発見能力が低いという仮説の検証がある。そのために必要となる、チョウの複眼の空間解像度を推定する手法を習得するために、アリゾナ州立大学のRonald Rutowski教授の研究室を訪れた。デジタルカメラとマクロレンズで撮影した深度合成写真を用いた簡便な計測法を習得し、日本産のFavonius属4種の複眼の個眼間角度を計測した。その結果、夜明け前に活動するクロミドリシジミでは空間解像度が低い代わりに、個眼のサイズが大きくなるという意外な事実を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究分担者の藪田氏との共同研究によって、従来用いられていた持久戦モデルに代わって、飛翔性昆虫の縄張り争いを記述する誤求愛説をモデルとして表現することに成功した(Takeuchi et al. 2016)。持久戦は飛翔中の相手の性を識別ができることが前提だが、誤求愛は性認識が不確実であるために、相手を雌かもしれないと判断した雄がお互いに追いかけ合っているのが縄張り争いであるとする学説である。過去の研究を見直すことにより、トンボの縄張り争いはどちらかといえば持久戦モデルの方が現実に合うが、チョウの縄張り争いに関しては、誤求愛説の方が現実と合うことも論証した(Takeuchi et al. 2016; Takeuchi 2017)。ここまでは当初の予定通りである。 翅の色に顕著な性的二型を示すジョウザンミドリシジミの縄張り雄に、雄の翅で作ったモデルと雌の翅で作ったモデルをモーターで回転させた状態で提示した。このモデルは、研究分担者の高崎氏が制作したものである。その結果、縄張り雄は、雄の翅で作ったモデルに対してより強く反応する傾向が見られた。誤求愛説を支持する結果であり、この実験も当初の予定通り進んでいる。 研究協力者であるアリゾナ州立大学のRonald Rutowski教授から、チョウの複眼の空間解像度を推定するための、深度合成写真を用いた簡便な方法を教わった。その方法を日本産のFavonius属に適用したところ、夜明け前に活動するクロミドリシジミの複眼は、空間解像度が低い代わりに、個眼のサイズが大きくなるという、当初は予想していなかった結果も得られた。 以上より、予定していた研究は順調に進んでおり、予想していなかった結果まで得られたので、(1)当初の計画以上に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ジョウザンミドリシジミを用いた性識別実験は順調に進んでいるので、平成29年度はサンプル数を十分増やして、論文化することを目標とする。本研究課題の申請時には、縄張り性を示す別種のクロヒカゲでも同様の実験を行う計画だった。しかし、研究分担者と議論した結果、縄張り性を持つジョウザンミドリシジミが雄の翅に強く反応するのは、ライバルを追い出そうとしているからだと反論される可能性があるので、縄張り性を示さない(ライバルを追い出す性質のない)近縁種でも同じような反応が見られれば、チョウの性認識の不確実性に対する信頼も高まるとの結論になった。そこで、クロヒカゲに代えて、縄張り性を持たないウラジロミドリシジミを用いて同様の実験を平成29年度から行う。調査地は青森県つがる市を予定している。 本研究課題のもう一つのテーマに、配偶縄張りを持つ種は配偶者発見能力が低いという仮説の、系統種間比較による検証がある。チョウの複眼の空間解像度を推定する手法は習得したので、今後は様々な種のチョウの標本を収集して、複眼の構造解析を行う。まずは本課題の行動実験で用いるジョウザンミドリシジミとウラジロミドリシジミが含まれるFavonius属各種を材料に用いる。Favonius属は日本に7種が生息するが、大陸にはそれに加えて別種が3種分布する。3種の中で、Favonius korshunoviは朝鮮半島や沿海州にも分布するので比較的サンプルが得やすい。平成29年度は、沿海州でサンプルを採集する。平成30年度以降は、チョウの全ての科から適当な種を選んで分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
回転モデルの部品や昆虫採集用具などに故障が少なく、予想よりも新たな購入が必要なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
複眼構造の解析のための写真撮影を依頼する人件費として使用する予定である。
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