本研究課題によって,植物に高濃度に含まれる生体分子ポリアミンがCO2と高い親和性を持ち,葉肉細胞表面でCO2を捕捉濃縮しうることが示された。この働きは,細胞表面から葉緑体内部までのCO2濃度勾配を増加させ,葉内のCO2輸送と炭酸同化を促進する働きを持つと予想される。光合成を律速する主要な環境要因は光エネルギーとCO2である。特に,乾燥地生態系では,強光条件と気孔閉鎖による大気からのCO2輸送の阻害が頻発するので,葉内ではCO2が不足しやすい。従って,ポリアミンによるCO2輸送の促進は,乾燥地生態系の植物で重要な役割を果たしていると考えられる。 そこで昨年度に引き続き,国内有数の厳しい乾燥地生態系である小笠原諸島父島の乾性低木林において,野外調査を行った。調査対象の5種の中で,気孔を極端に開閉する種では,葉内のCO2輸送能力が大きく変動することが見出された。このCO2輸送能力の変動がポリアミンによるCO2輸送の活性化に起因するか検証するため,ポリアミン生合成阻害剤を用いた野外実験を行った。得られたデータの解析を現在進めているところである。 さらに本年度,栽培植物を用いたポット実験も行った。ホウレンソウをポット栽培し,ポリアミンの生合成阻害剤またはポリアミン(および両者)を葉に付与して,葉内のCO2輸送能力への影響を評価した。この実験を,十分な潅水条件下と潅水停止による水ストレス下のホウレンソウで実施し,乾燥ストレスへの適応にポリアミンが果たす役割を検証した。得られたデータの解析は現在進行中である。
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