本研究では、マダガスカル島に生息する野生ワオキツネザルのメスの生涯繁殖成功の決定要因を明らかにするために、識別した個体を生涯にわたり追跡することで得られた個体別繁殖データと社会行動データを合わせて分析している。2019年度は、前年度に引き続き、社会行動データの分析をおこない、論文執筆の準備をおこなった。また、研究協力者1名(前畑)が現地調査をおこない、人口学データを収集した。 さらに、人口学的データを用いて30年間の個体群動態と社会動態をまとめた。調査個体群の個体数は、最初の17年間は増加傾向にあったが、2007年から急に減少し、2012年からは回復傾向にあった。個体数がピークに達した2006年頃にはキツネザルの体重減少や高い幼児死亡率(77%以上)が観察された。個体数増加期には、群れからのメスの追い出しなどの社会変動が繰り返し起きた。それにより、主調査地域に生息する群れの数は3群から7群に増加し、平均群れサイズは小さくなった。以上の結果から、メスの生涯繁殖成功は、社会的変数だけではなく、メスの出生年によっても影響を受ける可能性があることが明らかになった。この成果については、日本アフリカ学会第56回学術大会において発表をおこなった。また、アンタナナリヴ大学理学部におけるワークショップを計画していたが、育児休業にともなう延期とその後の新型コロナウイルス感染症による渡航中止によって、今年度中に実施することができなかった。 それから、2019年4月と2020年2月にはドイツに渡航し、ドイツ霊長類センター(ゲッティンゲン市)において国際共同研究を実施した。繁殖成功のモデル解析において、個体の優劣順位や個体群動態の影響をどのように扱うかという点を中心に議論をおこなった。
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