研究課題/領域番号 |
16K07533
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今村 公紀 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (80567743)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 神経発生 / ヒト進化 |
研究実績の概要 |
申請者は神経分化誘導可能なチンパンジーiPS細胞を既に樹立していたが、クオリティの高い最適株を得るために雌雄3個体のチンパンジーの皮膚線維芽細胞からiPS細胞の再樹立を行った。得られたiPS細胞に対して未分化状態での各種性状解析(核型、遺伝子発現)や分化多能性の検証(胚様体形成、ニューロスフェア(NS)形成)を行い、最もクオリティの高いiPS細胞株を選定し、以降の実験に使用することとした。 神経分化誘導実験としては、NS形成培養にて神経幹細胞への分化を行った。申請者が確立した手法ではiPS細胞から直接NSを形成させることができ、2週間ごとの継代によって持続的に維持することもできた(少なくとも8継代目まで維持可能)。本NS培養において1次NS(1週間目)、1次NS(2週間目)、2次NS、3次NSの遺伝子発現解析を行ったところ、NESTINは培養を通して一定の発現を示すのに対し、ZNF521やPAX6などの遺伝子は1次NS(1週間目)において最大の発現量を示し、以降は減少した一定の発現量を維持していた。一方、MUSASHI1の発現は3次NSに向けて培養経過とともに発現は上昇していた。さらに、NSにおける神経幹細胞遺伝子の発現動態の変化に伴い、成熟分化誘導条件で産生される分化細胞の種別も変化した。NS培養期間の延長に伴ってニューロン産生の効率が上がり、より成熟した形態を示した。反対に、CTIP2陽性の大脳皮質深層型ニューロンは、培養経過に伴い産生頻度が低下した。以上のことから、NS培養の経過に伴って神経幹細胞のポテンシャルが変化し、同時に産生されるニューロンが深層型から上層型に推移することが示唆された。 特定遺伝子の機能解析としては、p57Kip2に注目し、shRNAによるノックダウンを行った。p57Kip2抑制NSは成長が早く、大きくなり、分化傾向を示すことが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的に最適なiPS細胞株の樹立と選別、神経分化誘導系の確立と動態解析、特定遺伝子の機能解析など、順当に研究計画を進めることが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果を踏まえ、まずはNS培養過程における動態変化の詳細を明らかにする。神経幹細胞のポテンシャルについては、神経上皮細胞、radial glia、神経前駆細胞の各種マーカー遺伝子の発現を調べることで、神経上皮形成期から増幅期、ニューロン産生期への神経幹細胞の発生動態を特定する。また、産生ニューロンについても、大脳皮質深層ニューロン・上層ニューロンのマーカー遺伝子の発現を解析し、サブタイプの切り替え時期とその遺伝子発現基盤を特定する。これらの解析と同時に、トランスクリプトーム解析を行うことで、網羅的な遺伝子発現プロファイルの変化についても精査する。特に、同じプロトコールを用いたヒトiPS細胞のNS形成培養系を確立し、チンパンジーNSとの遺伝子発現プロファイルの比較解析を実施する。 遺伝子機能解析については、引き続きp57Kip2に着目した解析を行う。これまでに得ているプレリミナリーデータに基づいて、ノックダウンによる表現型・遺伝子発現の変化の詳細な解析を行う。ノックダウンの時期に関しては、iPS細胞の時点での実施(神経上皮細胞形成期における機能解析)とNS形成後の実施(神経幹細胞の自己複製と分化における機能解析)を分けて解析する。NSへの遺伝子導入法については、連携研究者との共同研究によって特定のエレクトロポレーション法が効果的である感触を得ており、さらに条件検討を進める。ノックダウンの結果を鑑みて、強制発現による機能増強についても検証を行う。また、上記のトランスクリプトーム解析によって興味深い遺伝子を絞り込むことができた場合には、それらの遺伝子の強制発現・ノックダウンに向けた調整も始める。 上記の研究計画に加え、現NS形成法以外の培養条件についても検証を行っていく。具体的には、低酸素培養や脳オルガノイド形成についてプロトコールの確立と動態解析を行う。
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