研究課題/領域番号 |
16K07535
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
早川 敏之 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80418681)
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研究分担者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 人類進化 / 精神機能 / シアル酸 |
研究実績の概要 |
我々現生人類は今も様々な環境に適応し進化している。しかし現生人類において精神機能に対して働いた適応については、全く分かっていない。我々は、細胞表面糖鎖末端に位置するシアル酸の研究により、脳特異的シアル酸糖鎖(ポリシアル酸)を介した脳細胞間の相互作用がヒト特異的に出現し、ヒトとしての高次精神機能の獲得に関わっていることを見いだしてきた。そこで、このヒト特異的脳細胞間の相互作用に注目し、それを構成する分子である、ヒト特異的に脳発現を獲得しポリシアル酸を認識するSiglec-11、ポリシアル酸を合成するST8SIA2、ポリシアル酸が付加される神経細胞接着因子(NCAM)の現生人類の進化を調べることで、現生人類出現後の精神機能の適応的進化について検討を行なっている。 Siglec-11については、その脳内ポリシアル酸に対する認識能の獲得は、シアル酸認識ドメインに働く機能的制約のゆるみによる前適応的な結果であることともに、Siglec-11はポリシアル酸とともに別のシアル酸糖鎖もリガンドとしていることが分かった。これらの結果は論文として発表した。 ST8SIA2については、プロモーター活性に関わる3つの多型サイトからプロモータータイプを分類し、タイプ間で活性を比較した。その結果、アジア、アメリカ地域に比較的多く見られるタイプ(CGC)のみ、活性が有意に低くなっていることが分かった。興味深いことに、CGCタイプは、統合失調症の発症に対して抵抗型であり、ST8SIA2遺伝子のプロモーター活性が統合失調症の発症リスクに関わっていることが示唆される。統合失調症は社会性の障害を主要な特徴とする精神疾患であることから、ポリシアル酸を介した脳細胞間の相互作用の獲得はヒトでの社会性の獲得に関わっている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、海外の研究協力者の協力のもと、糖鎖マイクロアレイ解析による大規模なSiglec-11のシアル酸認識能の解析を行なうとともに、研究分担者の協力のもとシアル酸認識ドメインについての進化解析を行なった。これらの結果は論文として発表した。さらにST8SIA2については、プロモータータイプの分類とその活性測定を行なうとともに、プロモーター領域のハプロタイプの推定とそれを用いた正の自然選択の検討を進めている。研究目的の4つの課題のうち、3つの課題に進展が見られるため、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究計画通り、Siglec-11、ST8SIA2、NCAMのハプロタイプの推定を行なうとともに、それらハプロタイプを用い、各分子に働く正の自然選択を検討する。また最近旧人ゲノムが公開されたことを受け、各分子の進化解析に旧人ゲノム配列も加えることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の遂行において正の自然選択の検出は必須である。今年度、ST8SIA2に対して正の自然選択の検討を既存の検出方法で試行したところ、既存の方法では十分な検出感度が得られないことが判明した。このため高感度の検出法を開発することが急務となった。ハプロタイプの推定と並行し、検出法の開発をすすめることとなったため次年度使用額が生じた。 このように次年度使用額が生じた理由は、従来よりも高感度な正の自然選択の検出法の開発を並行して行ったためであり、すでに新たな検出法の開発の目処は立っている。このため当初の計画通り、各分子のハプロタイプの推定に用いる。
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