本研究は、ヒト上科における社会構造の進化機構について考察するため、ゴリラの社会構造の種内変異についてその要因を明らかにすることを目的とする。ゴリラは基本的に単雄複雌の社会構造を有するが、一部の亜種ではしばしば複雄群を形成する。このような種内変異は主に、オス個体の性成熟に伴う出自集団からの移出の有無によってもたらされることから、本研究ではオスの移出プロセスとその至近要因について調べた。 平成28年度および平成29年度に、ガボン共和国ムカラバードゥドゥ国立公園に生息するニシローランドゴリラを対象に現地調査を実施した。その結果、オスは性成熟期にストレスホルモンが有意に上昇することが分かった。令和元年度は、追加データを収集するため、再度現地調査を実施した。令和元年度の調査対象は核オスの消失および新規参入によって再編成された集団であり、新しい核オスと亜成体個体との間に血縁関係は無かった。現地調査では、対象群を追跡して群れ内の社会交渉を記録するとともに、内分泌解析のための糞便試料を収集した。糞便試料は排泄個体を識別するため、DNA試料を同時に採取した。行動観察では、核オスから亜成体およびコドモオスへの攻撃が頻繁に観察された。 今後、収集した糞便試料を用いてホルモン測定を行い、性成熟のタイミングとストレスレベルの変化について分析する。さらに、平成28年度から令和元年度までに収集したデータを用いて、雄間競合の程度がオスの移出の意思決定プロセスにどのような影響を及ぼすのかについて分析する。また、核オスとの血縁関係の有無がオスの移出にどのような影響を及ぼすのかについても分析する。
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