研究課題
漸増運動負荷時にみられる最大脂肪酸化率は、運動不足やインスリン抵抗性では低いことが知られる。一方、脳内インスリン動態は、糖・エネルギー代謝に影響を及ぼし、鼻腔内インスリン投与による脳内高インスリン状態は、体重減少、食事性熱産生の増加、食欲抑制をもたらす。しかし、脳内高インスリン状態が運動中のエネルギー代謝に及ぼす影響については不明であり、鼻腔内インスリン投与による脳内高インスリン状態が運動時の脂肪酸化に及ぼす影響について検討した。正常体重(N群、15名)と過体重(BMI ≧ 25 kg/m2、O群、8名)の若年健常者に対し、インスリン(INS)またはプラセボ(PL)の2試行をランダム化単盲検交差試験として実施した。朝絶食でレギュラーインスリン(40単位)または生理食塩水を鼻腔内に投与した後、呼吸商が1.0に達するまで漸増運動負荷を実施した。間接的熱量測定の結果から、個々の対象で運動強度対脂肪酸化率の二次曲線を作成し、運動中の最大脂肪酸化率(max FOR)とその際の運動強度(FATmax)を求めた。血中グルコースおよびインスリン濃度は鼻腔内投与により変化しなかった。N群ではmax FOR、FATmaxならびに運動中の総脂肪酸化量はINSでPLに比し有意に低値を示した。O群のmax FORはN群に比し有意に小さく、鼻腔内投与による影響を受けなかった。N群では運動負荷終了時の血中アドレナリン濃度の上昇がINSにより抑制される傾向を示したが、O群ではこの効果は認められなかった。以上の成績より、鼻腔内インスリン投与は血中インスリン濃度を上昇させずに運動時の脂肪酸化を抑制した。脳内高インスリン状態は交感神経系の抑制を介して、運動時の脂肪動員を抑制する可能性が示された。一方、運動中の脂肪酸化抑制効果が過体重で消失したことから、過体重では脳内インスリン作用が減弱しているものと考えられた。
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Journal of Clinical Medicine
巻: 7 ページ: 308~308
10.3390/jcm7100308