平成30年度は、イネいもち病圃場抵抗性遺伝子qBRM6.2の異なる遺伝的背景下における効果の変動とその要因を解析した。 Moroberekan由来のqBRM6.2の配列はインディカ型品種Kasalathと相同であったことから、コシヒカリとKasalathの交雑組合せに由来するChromosome segment substitution lines (CSSLs) を農業生物資源ジーンバンクより分譲を受け、その中からqBRM6.2を有し、遺伝的背景がコシヒカリにもっとも近いSL217を選択して、いもち病菌各レースに対する反応をqBRM6.2に関するCO39 のnear-isogenic line RIL66と比較した。その結果、SL217は供試レースに対してコシヒカリよりも量的に抵抗性であったものの、その程度はRIL66よりも低かった。CO39とコシヒカリは同程度に罹病性であるにも関わらず、それぞれqBRM6.2を導入した系統における抵抗性に差が認められたことから、コシヒカリではqBRM6.2を介した抵抗性の誘導に必要な因子の一部が欠落しているのではないかと考えられた。そこで、次にPR geneなどの防御関連遺伝子の発現パターンをコシヒカリとCO39で比較した。その結果、コシヒカリでは抵抗性の誘導に重要な転写因子WRKY45を始め、多くの防御関連遺伝子の発現量がいもち病菌の接種24時間後においてCO39よりも低かった。これらの結果から、コシヒカリでは抵抗性誘導経路の上流においてシグナル伝達に関わるある遺伝子の機能が喪失しており、qBRM6.2などを導入した場合に、それらの抵抗性が十分発揮されないのではないかと考えられた。
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