研究課題/領域番号 |
16K07555
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
松本 晃幸 鳥取大学, 農学部, 教授 (60132825)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 菌類分子遺伝学 / QTL解析 / 早晩性 / 育種マーカー / 栽培きのこ類 |
研究実績の概要 |
我が国特用林産物の基幹作物である食用きのこ類の栽培において、植え付け後から子実体(所謂、きのこ)の発生までに必要とする期間はきのこの種および品種間で様々であり、収穫までのトータルな栽培期間を決定する極めて重要な育種形質である。とくに、主要きのこ種であるシイタケにおける品種間差は著しい。しかしながら、必要とする当該期間の長短(早晩性)が何故に生じるかについての分子遺伝学的な理解はこれまでほとんどなされていない。本研究は、品種間で要求する栽培期間の長短が顕著であるシイタケを材料として、早晩性を決めている遺伝子群を同定し、その遺伝子情報をDNAマーカー開発等の新規育種技術に繋げることを目標とする。このため、これまでに早生型と晩生型の組み合わせによる交配株由来のQTL解析集団について、AFLPマーカーに基づく13連鎖群からなる遺伝連鎖地を作製し、本地図上に2つのQTLをマッピングしている。これらを基礎にして本年度は、①推定している2つのQTL領域をカバーするゲノム配列を抽出するため、起点となるマッピングマーカーのSTS化を進め、それぞれについて2マーカーの配列情報を取得することができた。②本課題に着手した後、シイタケの長鎖ゲノム配列が海外の研究者により公開された(Chen et al. 2016)ため、2つのQTLについて取得QTL近傍マーカー配列を目印として、公開ゲノム配列から周辺領域配列を抽出した。その結果、両QTL領域の全域について、ほぼ連続した配列情報を得ることができた。③抽出した領域配列について、AUGUSTUSにより遺伝子領域を推定し、それらの機能をblastpにより推定して遺伝子構成をまとめた(公開ゲノムデータから遺伝子のアノテーションデータを入手することができなかった)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画の大きなポイントとなるQTL領域のゲノム配列抽出に供試する配列を近傍マーカーのSTS化により取得できた。また、次世代シーケンサー解析による長鎖配列からなるゲノムデータが本課題への取り組み開始後に公開されたため(2016年8月、ただし、アノテーションは利用できる環境になかった)、STS化したマーカーを用いたQTL領域配列の抽出を実施することができた。結果的に、計画していた次世代シーケンサー解析は行わなかったが、ほぼ計画通りに抽出したゲノム配列に基づき、座乗遺伝子を推定して当該領域の遺伝子構成をリスト化し、それらの機能をblastp検索等により推定するところまで進み、次年度のQTL責任遺伝子絞り込みの基本的な準備を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は公開されたゲノム情報を基盤にして、基本となるQTL領域のゲノム配列とその遺伝子構成を推定することができた。このため次の段階として、公開ゲノム(中国産菌株由来)と本研究で供試するゲノム(日本産菌株由来)間で予想される不一致部位(ゲノム多型)をQTL関連領域に焦点を当てて検討し、当該領域の材料株ゲノム由来の配列を確定して行く予定である。また、確定する配列に基づいた推定遺伝子の中から、現在までに報告されているシイタケ子実体形成特異的な発現遺伝子情報等(Tang et al 2013など)を参考にして、早晩性との関係が推察されるものについての絞り込みを行う。さらに、早晩性の明確な代表的品種を材料にして、絞り込んだ遺伝子について、表現型に共通した配列構造の特徴を解析して、最終的な絞り込みを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題に着手した数ヶ月後の8月に、中国の研究グループにより、信頼できるシイタケのゲノム配列が公開された。本公開webサイトではまだ遺伝子機能を入手することはできないものの、このことでまとまった配列情報をレファレンス配列として入手できる環境を得ることができた。このため、申請者手持ちのロシュ454シーケンサーによるシイタケM852ゲノムデータ(総Contig数19,000台)を集約するために計画していた次世代シーケンサー(Hiseq2500とPacBio)による再解析を取りやめることにした。また、STS化の実験では多くの時間と労力を費やすことになったが、費用には他の研究費を充てることができた。これらの理由で記載の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は計画に記載したように公開ゲノム(中国産菌株由来)と本研究で供試するゲノム(日本産菌株由来)間で予想される不一致部位(ゲノム多型)を解析する予定である。この解析には、不一致部位の探索と材料株のゲノム配列情報の取得を進めることになる。この解析方法として、次世代シーケンサーによるRAD-Seq解析による大幅なマーカー追加と公開ゲノムをレファンレンスとした材料株ゲノムのリシーケンスを考えている。これらは申請時には計画していない内容であるため、この実施費用に使用する予定である。
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