栽培イネOryza sativaの祖先野生種でAAゲノムをもつO. rufipogonはアジア南部,マレー諸島,ニューギニア,オーストラリア北部に分布する.オーストラリアにはAAゲノムをもつ別の野生イネO. meridionalisも分布している.アジアの野生イネ O. rufipogon系統W0106と交雑すると葉の先端が黄色くなる雑種黄化現象を呈する野生イネがオーストラリアのO.rufipogonと,O. meridionalisにのみ見出された。このことは,遺伝的に遠いとされてきたO. meridionalisとオーストラリアのO. rufipogonが同じ核ゲノム遺伝子を共有していることを示唆する.2019年度の研究実績は3つに大別される. 1. W2109のゲノム解析を行った.雑種黄化遺伝子が座乗している第7染色体は1本のアセンブリーとなったが,参照配列である日本晴ゲノムとの相同性が低いために,上手く繋がらない染色体が多かった.また,根と葉からRNAを抽出し,次世代シークエンサーで解読し,ゲノム配列との関係を見た.その結果,4万以上の遺伝子数を予測した. 2 .第7染色体の雑種黄化遺伝子周辺にオーストラリアの野生イネ特異的な配列があるかどうか調査した.その結果,17Mb付近にオーストラリアのO. rufipogonとO. meridionalisが共有し,他の種には見られないDNA多型を見出した.雑種黄化遺伝子の分布から推察されるのと同様に,オーストラリアのO. rufipogonとO. meridionalisは過去に交雑し,その後,introgressionによって核ゲノムが大きく異なったと考えられた. 3..戻し交雑を進め、ゲノムの7/8以上が栽培イネ台中65号に置き換わり,かつ黄化が分離した系統の黄化個体,正常個体それぞれ2個体の止め葉からRNAを抽出し,RNAseqを行った.その結果,黄化個体で特異的に発現が高まる20遺伝子,黄化個体で特異的に発現が低くなる14遺伝子を見出した.34遺伝子中の11遺伝子が第7染色体上の遺伝子であったことから,連鎖分析や多型分析の結果と符合した.
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