研究課題/領域番号 |
16K07569
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
和田 義春 宇都宮大学, 農学部, 教授 (80201268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ダンチク / エネルギー作物 / 光合成 / 耐湿性 / 耐旱性 / 耐塩性 |
研究実績の概要 |
平成28年度には,わが国のダンチク系統(口之津)と海外の系統(サンディエゴ)を供試し,光合成能力の耐湿性,耐旱性,耐塩性を調査した.耐湿性の強いイネ,耐旱性の強いソルガムおよび耐塩性の比較的強いオオムギとヨシを比較の対照として用いた.光合成能力は,大気CO2濃度,光合成有効放射2000μmol/㎡/s,葉温28℃下のみかけの光合成速度(Pn)とクロロフィル蛍光(Fv/Fm)で評価した. 湛水条件下でのPnおよびFv/Fmは,ダンチクの2系統ともイネと有意差は無く,ダンチクはイネと同等の耐湿性があると評価された.口之津,サンディエゴとも湛水条件下で根に通気組織の形成が確認された. 1週間灌水を停止し,土壌水分を-0.12MPaまで低下させた旱ばつ条件下のPnは,ソルガムは実験期間を通じて低下しなかったが,ダンチクの口之津,サンディエゴとも土壌水分が-0.10MPa付近から低下したがオオムギやイネよりは高い値を維持し,ダンチクはソルガムよりは弱いもののかなり高い耐旱性を有すると判断された.旱ばつ条件下でのダンチクの葉水ポテンシャルの低下はソルガムよりも小さかったことから,ダンチクでは,比較的高い水ポテンシャルから気孔閉鎖が起こりPnが低下すると考えられるが,この点についてはさらに検討が必要である. 海水の塩分濃度に近い3%NaCl溶液灌水処理後,オオムギは2日目から,ヨシは4日目からFv/Fmが低下したが,口之津,サンディエゴとも7日間低下がみられなかったので,ダンチクは,オオムギやヨシよりも高い耐塩性を持つと判断された.オオムギやイネでは,塩処理後地上部のNa含量が著しく高まったのに対し,ダンチクでは根や根茎中のNaは高まるものの,地上部へのNaの移行は阻害され葉身や茎のNaは低く保たれていることが判った.今後さらに他の陽イオンや陰イオンの動態について検討したい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,ダンチク光合成の環境ストレス耐性について,わが国のダンチク系統(口之津)と海外の系統(サンディエゴ)を供試し,耐湿性と耐旱性および耐塩性について調査し,いずれもダンチクが優れていることを確認した.特に,耐塩性については,そのメカニズムについて次年度以降予定していたダンチクのNa吸収と体内移行の点からの検討を先に進め,得られた結果を学会発表した.一方,当初予定した他の系統を用いた系統間差の検討は未実施であり,平成29年度に実施する予定である.以上のように当初予定の研究計画より早く進んでいる部分とやや遅れている部分があるが,全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
ダンチク光合成能力の耐湿性,耐旱性,耐塩性について,再現性を確認するとともにさらに2,3の系統を加えて系統間差について検討を進める.耐塩性については,どの程度の塩濃度に耐えられるかを定量的に把握するために,土壌塩濃度に対する反応を調査する.平成29年度には,さらにダンチクの耐湿性,耐旱性,耐塩性について,その要因解析を実施する.耐湿性については,湿害に遭ってから通気組織の形成に至る時間経過を調査したい.耐旱性については,水ポテンシャルの変化と気孔の反応性について詳細に検討するとともに,関連する形態的要因として葉面積比(葉面積/乾物重比)や葉組織を比較検討する.耐塩性については,平成28年度にNa+について,ダンチクは塩処理条件下でNa+を吸収するが,地上部への移行が阻害されることを見たが,平成29年度には,いかにして地上部への移行が阻害されるのかについて茎基部の構造を調査,検討したい.また平成29年度には,K+,Mg2+およびCa2+など他の陽イオンおよび陰イオンCl-の吸収と移行について分析を実施する予定である.
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