平成30年度には,ダンチクの耐湿性と耐塩性について組織形態学的に調査を行った.耐湿性については,ダンチクの日本系統(口之津)および欧州系統(サンディエゴ)とも湛水条件下で根の皮層に破生通気組織を形成することが明らかとなり,ダンチクはイネや他の耐湿性作物と同様,地上部から根へ酸素を供給する能力が高いことで高い耐湿性を有することが判った.耐塩性については,ダンチクの日本系統(口之津)および欧州系統(サンディエゴ)とも耐塩性が高いとされるヨシと同様に茎基部に塩処理条件下でデンプン粒の蓄積が認められ,地上部へのNa+の移行阻害に関与している可能性を示唆した.なお,この点についてはこの茎基部のデンプン粒がNa+を吸着しているかどうかの確認が必要である.また,耐塩性メカニズムに関してイオンの吸収と体内移行を調査したところ,ダンチクでは塩処理下で地上部の葉身や茎のNa+含有率が低く保たれ,またK+やMg2+,Ca2+など他の陽イオン含有率への影響が少なく,代謝のかく乱が小さいことが判った. これらのダンチクの耐塩性メカニズムをさらに検討していくために,平成30年度にはダンチクの水耕栽培を試み,切り出した地上部の節(node)からshootを再生させ,水挿しで発根させることにより均一な個体を多数得る方法を見出した.この水耕実験系でダンチクの耐えられるNaCl濃度について検討したところ,日本系統(口之津)および欧州系統(サンディエゴ)とも200mMまでは7日間以上葉緑素の低下がみられず生存したが,300mMでは4日目より黄化し7日目には枯死する個体があったことから,ダンチクの耐えられる塩濃度は海水のおおむね1/2程度と推測された.今後この水耕系を用いた耐塩性メカニズムの研究進展の端緒を作ることができた.
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