研究実績の概要 |
近年、イネ登熟期の高温・低日射により白未熟粒の発生が問題となっているが、その発生機構には不明な点が多い。研究代表者らは、品種「日本晴」に重イオンビームを照射した約1,000系統のイネ変異集団より、通常の圃場条件下で白未熟粒を多発する突然変異系統13-45を分離した。13-45は、低気温環境下で栽培すると白未熟粒の発生割合が低下し、野生型と同程度の白未熟粒割合を示す。そのため、13-45は高温に対する感受性が高くなった系統であると推察された。これまでにプロテオーム解析等により原因候補遺伝子cpHsp70-2を同定し、第二エキソン部に一塩基置換を見出したものの、その発現量には差異は認められなかった。本研究では、高温処理をした登熟中未熟種子におけるRNA-seq解析により、熱ストレスタンパク質遺伝子の発現量が上昇し、種子貯蔵タンパク質プロラミンの発現量が低下するなどの変化を認めた。一方、cpHsp70-2の大腸菌発現系を構築し、発現タンパク質の機能解析を行った。すなわち、cpHsp70-2をグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として大腸菌内で発現させ、GSTカラムを用いて高純度に精製した。組換えcpHsp70-2が有するATPase活性を調べたところ、13-45型は野生型に比べ、補酵素や基質を含まないときの最大活性が23%減少していることを明らかにした。また、cpHsp70-2と相同な分子シャペロンDnaKを欠失した大腸菌の常温・高温下での相補試験により、13-45型のcpHsp70-2はその機能を大きく損ねていることを明らかにした。すなわち、13-45型cpHsp70-2のタンパク質機能低下が、白未熟粒発生の主要因であることが示唆された。
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