イネは耐塩性が低いことが知られており,耐塩性の向上が求められているが,収量向上に重要な耐塩性機構や遺伝子については十分に調べられていない.本研究では,まず,(1)塩感受性品種コシヒカリの遺伝背景に耐塩性品種Nona Bokra の染色体断片が部分置換された系統と,(2)コシヒカリの遺伝背景に耐塩性が中程度のIR64 の染色体断片が部分置換された系統の2集団を用い,長期の塩処理を行った.その結果,コシヒカリ/Nona Bokra系統群から5つの耐塩性系統を見いだされ,コシヒカリ/IR64系統群からは,コシヒカリ/Nona Bokra系統群とは異なる領域が置換された2系統を見いだされた.そこで,それらの系統の内,特に耐塩性が高い4つの耐塩性系統をコシヒカリと交配して得られたF2集団を用いて,栄養成長期から収穫期までの長期塩処理を行い,収量と収量構成要素を調査するとともに,各系統のDNA抽出し,SSRマーカーを用いて遺伝子型を調査し,収量に関わるQTL解析を行った.その結果.染色体上の4箇所にNona BokraあるいはIR64に由来する収量あるいは個体乾物重の向上に関わるQTLが見いだされた.さらに,IR64を遺伝背景にコシヒカリの染色体が部分置換された系統群についても同様に長期塩条件で生育させ,収量と収量構成要素を調査した.その結果,IR64よりも耐塩性を示す3つの系統が見いだされた.このことは,感受性品種コシヒカリにも耐塩性に関わる領域があることを示した.さらに,長期塩条件におけるイネの収量低下に関与するイオンストレスを検討したところ,NaストレスではなくClストレスが収量低下に密接に関係することが示唆された.
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