研究課題
本研究は、登熟期の窒素分配特性が大きく異なる水稲2品種を親とするF2およびF3集団を用いて窒素分配特性および登熟期の稲体窒素動態に関与する量的遺伝子座(QTL)の解析を行こと、およびそれらのQTLに関する準同質遺伝子系統の作出を目的とする。平成29年度は石川県立大学附属農場の水田において、多肥および少肥の条件で、両親品種、F1および、180系統のF3世代をそれぞれの窒素条件で各10個体栽培した。各系統の出穂期および出穂期とその後1週間毎に葉色(SPAD値)を調査した。各系統全個体について成熟期に地上部を刈り取り、稈長、茎葉乾物重、穂数、籾数、玄米数、および玄米重を測定した。各個体の茎葉乾物試料および玄米を粉砕し、茎葉窒素濃度および玄米タンパク質濃度を求めた。各系統の稲体窒素含量、玄米重および玄米タンパク質濃度を用いて窒素の移行性を示すパラメータを算出した。上記の表現型に関するQTL解析をWindows QTL Cartographer ver. 2.5を用いて行った。登熟期の窒素の移行性を示すパラメータに関与するQTLは4か所に検出され(LOD値3.0以上)、その中でも特にLOD値および寄与率の高い2つのQTL領域はF2世代の解析で検出された領域とほぼ一致した。一方、これらの領域は、玄米タンパク質濃度に関与するQTLとは一致しなかった。これらの解析に加えて、検出されたQTLの登熟期稲体内の窒素移行への関与の実証を目的として、当該領域に関する染色体組み換え系統の作出も進めた。前年度に得たBC1F1世代18個体にさらに戻し交配を行い、BC2F1世代を得た。秋以降にガラス室でBC2F1世代を栽培し、F2およびF3のどちらかにおいて登熟期稲体内の窒素移行への関与が検出された領域についての遺伝子型の調査を行い、それらの領域においてヘテロを示す個体を選抜した。
2: おおむね順調に進展している
28年度のF2を用いたQTL解析の結果、稲体による窒素の吸収、利用およびその稲体内の移行に関するQTLが検出された。F3世代を用いて、これらの形質に関与するQTL解析の追試を行うとともに、これらQTLについて環境要因(窒素利用可能性)の影響を明らかにすることを目的として、29年度のF3世代を用いたQTL解析は登熟期以降多肥条件および少肥条件の2水準の施肥条件で行った。多肥区の解析は完了したが、小肥区については採取した稲体サンプルの調査および解析途中である。連鎖地図に関しては、マーカー間隔の広い個所を中心に、多型を示すSSRマーカーおよびSNPを探索した結果、マーカー数を88から96まで増やすことができ、平均マーカー間隔を20 cM以下まで狭めることができた。検出されたQTLの登熟期稲体内の窒素移行への関与の実証を目的として、当該領域に関する染色体組み換え系統作出の作業も順調に進んでいる。前年度に得たBC1F1世代18個体にさらに戻し交配を行い、BC2F1世代を得た。BC2F1世代をガラス室で栽培し、F2およびF3のどちらかにおいて登熟期稲体内の窒素移行への関与が検出された染色体領域について遺伝子型の調査を行い、それらの領域においてヘテロを示す個体を選抜した。
平成29年度に小肥条件で栽培したF3系統の茎葉および子実の窒素分析を進め、QTL解析を行う。F2世代、多肥区および小肥区のF3世代の結果から、登熟期の稲体内窒素移行に関する遺伝要因の解析を行うとともに、窒素吸収および蓄積への遺伝要因および環境要因(土壌窒素条件)の解析を進める。また登熟後期の茎葉部窒素濃度に強く影響されることが予想される他の形質、例えば茎葉への蓄積非構造性炭水化物(NSC)含量の調査を行い、あわせて解析する。これまでに明らかになった、登熟期稲体内窒素動態への関与が示唆される複数のQTL領域に関する準同質遺伝子系統の作成のために、戻し交雑とマーカー選抜を進めていく。
本研究推進のために購入を予定していた機器(乾燥機)が、既存の機器を修理することで不要となった。当初予定していなかったが、本研究推進のために有用な機器を購入する予定である。
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農業農村工学会論文集
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Breeding Science
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10.1270/jsbbs.16203