研究課題/領域番号 |
16K07581
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
福田 あかり 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 上級研究員 (40355235)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物 / 生理学 / ストレス / トランスクリプトーム / イネ |
研究実績の概要 |
大型の穂を持ち、多収のインド型稲は、加工米や飼料用米などの新規需要米の育種材料として用いられている。しかし、熱帯地方を起源とするインド型稲は、日本型稲に比べ生育初期の低温耐性が低く、低温により葉が黄化する低温クロロシスと呼ばれる傷害を起こし、苗の生育が不良になるという問題が起こっている。稲の低温耐性を高めるため、低温耐性の生理メカニズムの解明、耐性に関わる遺伝子の同定が求められており、本研究では、低温耐性の高い日本稲系統と低温耐性の低いインド型稲系統を用いて、転写産物(RNA)を網羅的に調査するトランスクリプトーム解析を行い、これにより、低温耐性をもたらす転写産物の同定を目指す。これまでに、日本型稲Arroz da Terraとインド型稲ハバタキの交配後代系統の中から、低温下での葉緑素濃度を指標に、低温耐性の高い系統と低い系統を選抜し、次世代シーケンサーを用いてのトランスクリプトーム解析(RNA-seq解析)を行った。網羅的に検出した転写産物の中から、低温下で、低温耐性の高い系統で高発現となる候補遺伝子を選出した結果、候補遺伝子の中に、酸化還元反応に関わると予想される遺伝子、葉緑素局在型リポキシゲナーゼ遺伝子(LOX1)を検出した。さらに、定量的リアルタイムPCR法を用いて、交配系統の低温耐性(低温下葉緑素濃度)と候補遺伝子(LOX1)の発現量を調査した結果、系統の葉緑素濃度と候補遺伝子の発現量には、有意な正の相関があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、低温耐性系統で、低温下で高発現となる候補転写産物(LOX1)について、定量的リアルタイムPCR法を用いて、交配系統の葉の発現量の測定を行った。インド型稲品種ハバタキと、日本型稲品種Arroz da Terraの交配F2世代91個体について、低温下での第3葉葉緑素濃度と候補転写産物(LOX1)発現量を調査した結果、葉緑素濃度と候補転写産物発現量には、有意な正の相関があることが明らかとなった。さらに、親品種のハバタキ、Arroz da TerraのLOX1の塩基配列を調査した結果、ハバタキのLOX1コード領域内に24塩基の欠失が有ったが、F2系統のLOX1発現量と塩基配列の欠失との間に関連は見られなかった。このことから、LOX1発現量を調整する要因は、塩基配列の変異以外にあると考えられた。また、F2世代低温耐性系統バルク、感受性系統バルクからDNAを抽出し、各バルク間で存在比の異なるSNPを検出するQTL-seqを行った結果、LOX1遺伝子位置にQTLは検出されず、第1・第6染色体上に、低温下葉緑素濃度に関わる新規QTLを検出した。
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今後の研究の推進方策 |
・選出した低温耐性候補転写産物について、ハバタキ/Arroz da Terra交配F2世代以降の後代系統を用いて、転写産物の発現量と、低温耐性程度(葉緑素濃度)との比較を行う。さらに、Arroz da Terra、ハバタキ交配系統以外の、世界イネコアコレクション等の他品種において定量的RT-PCRによる発現量調査を行い、候補転写産物が他品種でも低温下の葉緑素濃度と関連を持つか調査する。 ・低温耐性候補転写産物について、ポリユビキチンプロモーターを用いて、候補遺伝子の発現を亢進あるいは抑制する遺伝子カセットを構築し、それらをイネに導入し、候補遺伝子を過剰発現、あるいは発現抑制した組換えイネを作成する。それらの組み換えイネを用いて、候補遺伝子の発現量変化が直接に葉緑素濃度に影響するか調査する。 ・ハバタキ/Arroz da Terra交配F2世代の低温耐性系統、感受性系統の次世代シーケンサーによるバルクDNA解析(QTL-seq法)により検出された第1・第6染色体上の低温下葉緑素濃度QTLについて、QTL内に既存の低温耐性に関連する遺伝子があるか調査する。また、候補遺伝子があればそのコード領域内に親品種間で塩基配列の変異があるか、調査を行う。塩基配列の変異を検出した場合は、ハバタキ/Arroz da Terra交配後代について、遺伝子の変異型を調査し、変異と低温耐性との関連が見られるか確認する。また、ハバタキ/Arroz da Terra交配後代系統の中から、低温耐性・感受性の形質が固定化された系統を選出してQTL-seq解析に用い、QTL検出の感度上昇を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額となる残額が生じたのは、研究費を効率的に使用した結果による。次世代シーケンサーによるRNAおよびDNAの塩基解析については、業者委託費を、当初の見積もりより低価格にて行うことができた。これは、次世代シーケンサーによる塩基解析は、「1. 次世代シーケンサーによる塩基配列の機械分析」、「2. 分析データのコンピューター解析処理」が必要であり、これらの二つの作業の両方を外部委託する予定で見積もりを立てていたが、研究代表者が「農林交流センターワークショップ・次世代シーケンサーの解析技術」を受講したことで、分析データのコンピューター解析処理を自身で行うことが可能となり、「1. 転写産物塩基配列の機械分析」のみを委託することにより、予定より低価格での委託が可能となったためである。 (使用計画) 次年度使用額1,417,051円は、ハバタキ/Arroz da Terra交配後代系統を用いて、解析系統を増やして転写産物の網羅解析を行うために使用し、実験結果をより確実なものとする。また、ハバタキ/Arroz da Terra交配系統以外のイネ品種、さらに候補転写産物の発現促進・抑制のための遺伝子を導入した組換えイネについて、候補転写産物発現量を調査するための定量PCR解析に必要な試薬購入費として使用する。
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