研究課題/領域番号 |
16K07586
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松倉 千昭 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60361309)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トマト / 果実 / デンプン / 細胞壁 / AGPase / ペクチン / 糖 / 果皮 |
研究実績の概要 |
トマトにおいて果実,葉柄組織に蓄積したデンプンの代謝経路およびその分解産物の機能を解明するため、先行研究において作出されたデンプン蓄積抑制形質転換体(ADP-glucose pyrophosphorylase遺伝子 AgpS1、AgpL1 RNAi形質転換系統) を供試して細胞壁や組織強度に注目して解析を行った。H.28年度に赤熟期においてデンプンはUDP-D-ガラクツロン酸に代謝されていることが強く示唆されたことから、H.29年度は中間代謝産物であるグルコース-1-リン酸(G1P)、グルコース-6-リン酸(G6P)、UDPグルコース-1-リン酸(UDPG) の定量を行った。また、懸案であった形質転換体におけるAGPaseの酵素活性測定を行った。その結果、緑熟期果実で顕著なデンプン減少が見られた系統において、G1Pの減少が確認された。また、G6Pついては、形質転換系統において緑熟期で上昇するものの赤熟期では非形質転換体系統と形質転換体系統で差が見られなかった。これらの結果は、デンプン分解産物が解糖系ではなく細胞壁合成に流れていることを示しており、これまでの結果を補強するデータと考えられる(UDPGについては測定系の改良が必要)。また、懸案であった形質転換体におけるAGPaseの酵素活性について、測定系の最適化に成功し活性評価を行った。並行して、AgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統についても解析を進めた。しかし、T2世代で選抜された優良系統について異なる世代を供試し解析を行った結果、デンプン高蓄積系統を得ることはできなかった。また、AgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統の交配系統を作出し、デンプン蓄積の評価を行ったが、優良系統の獲得は出来なかった。これらの結果は、トマト果実においてデンプンの過剰蓄積を抑える何らかの機構が存在することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H.28年度の解析において、緑熟期果実に蓄積されたデンプンが赤熟期果実において糖だけでなく二次細胞壁の主要構成多糖であるペクチン合成に利用されている可能性が強く示唆された。そこで、今年度はデンプンからガラクツロン酸(ペクチンの主成分)に至る代謝経路および解糖系の中間代謝産物の動態を調査した。その結果、デンプン蓄積が顕著に抑制されている系統において、約20%のG1P含量の減少が確認された。他方、解糖系に代謝される初発代謝産物であるG6Pについては、緑熟期において非形質転換体と比較して最大2.6倍の増加が観察されたのに対し、赤熟期においては顕著な差は見られなかった。この結果は、成熟期間におけるデンプン分解産物がG1P(細胞壁多糖合成)に代謝され、G6P(解糖系)へは流れていないことを示し、H.28年度の結果を裏打ちするデータといえる。なお、UDP-グルコースについても測定を試みたが、定量には至らなかった。懸案であったRNAi形質転換体のAGPase酵素活性については、H.29年度に共同研究先であるフランスINRAボルドーセンターにおいて測定条件の改良を行い、デンプン蓄積抑制系統において同酵素活性が顕著に抑えられていることを確認することが出来た。 一方、AgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統については、H.28年度に目的遺伝子が高発現している系統を複数確保していたが、デンプン高蓄積系統を得ることはできなかった。H.29年度は供試世代をT1とT3世代に拡大して解析を行った。また並行してAgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統の交配系統を作出して解析を行ったが、いずれの解析においても果実においてデンプン蓄積が安定して促進された系統を得ることは出来なかった。このことから、果実ではデンプンの過剰蓄積を抑制する何らかの機構が存在していると結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
デンプン蓄積抑制形質転換体(AgpS1、AgpL1 RNAi形質転換系統)を用いた解析については、細胞壁多糖合成系周辺の代謝産物、特にUDP-グルコースおよびガラクトースの定量を進める予定である。また、ガラクトースがビタミンC代謝と関係しているという報告があることから両者の関係に注目して解析を行う予定である。また、RNA系統を供試してRNA-seq解析を行い、AGPase発現抑制が他の代謝系に与える影響を網羅的に解析する予定である。一方、AgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統を用いた解析については、標的遺伝子が高発現しているにも拘わらずデンプンを高蓄積した優良系統が得られなかったことから、当該解析をH.29年度で中止し、AGPase発現抑制系統の解析に注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H.29年度に予定していたINRAボルドーセンター保有デンプン過剰蓄積変異体の変異原因遺伝子マッピングについて、別枠の予算が確保されたため、当該課題からの支出を行わなかった。また、AgpS1、AgpL1過剰発現形質転換体系統についてデンプン過剰蓄積系統を得られなかったことから、予定していた一部の解析を中止したため、当初見込んでいた額よりも支出が減り、次年度使用金額が発生した。次年度、新たにAgpS1、AgpL1発現抑制形質転換体系統を供試してRNA-seqを行う計画を立てているため、次年度使用金額はその解析費用に充当する予定である。
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