研究課題/領域番号 |
16K07587
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大川 克哉 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 講師 (00312934)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物工場 / イチジク / 養液栽培 / LED / 補光 / 果実品質 / 果実収量 / アントシアニン |
研究実績の概要 |
太陽光利用型植物工場でのイチジク果実生産において,より果実収量を高めることを目的に,栽植密度(結果枝密度)を高めるとともに,補光により光環境の改善を図ることを試みた.材料には6Lポット植え養液栽培イチジク樹を用い,これまでの研究により比較的果実生産性が高いことが明らかになっている春季から栽培を開始する作型で実験を行った.まず栽植密度を標準(株間33㎝)とする対照区と高密度(株間25㎝)とする区を設け,樹冠内各位置,すなわち結果枝基部から樹冠上部までの果実着生部位における光条件の違いを調査したところ,結果枝基部の光合成有効光量子密度は標準区では19.9μmol/m2/sであったのに対し,高密度区では7.4μmol/m2/sと著しく光環境が悪化することが明らかとなった.そこで,栽植密度を高密度とする樹に対して栽結果枝基部から高さ50cmの位置で赤色,青色,緑色のLEDを照射する区,栽植密度を高密度としLEDを照射しない区および栽植密度を標準とする5区を設け,果実品質および果実収量に及ぼす影響を調査した.なお,LEDの照射は昼間に行った.その結果,栽植密度を株間25cm(高密度)に高めた場合では,栽植密度が株間33cmの場合と比べて,果実重,果実径,可溶性固形物含量および1樹当たりの収量に有意な差は無かったが,果皮中のアントシアニン含量が減少し,着色が著しく悪化した.一方,栽植密度を株間25cmと高めても赤色,青色および緑色LED照射を行うと,果皮中のアントシアニン含量の増加が促進され,果皮の着色程度は株間33cmと同程度となった.また,光質の違いによるアントシアニンの蓄積量には違いが見られなかった.これらのことから,栽植密度を株間25cmとし,LEDにより昼間の補光を行うことにより,単位面積当たりの果実収量を株間33cmの場合と比べて約30%向上できることがが明らかとなった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していた高栽植密度条件下での結果枝基部付近へのLED光の昼間照射ならびに光質の違いが果実品質および果実収量に及ぼす影響に関する実験では,春季から秋季に栽培を行う作型において,高栽植条件下でも光環境の悪化する結果枝基部にLED光を照射することにより,果皮中のアントシアニン蓄積を促進することにより着色が向上され,単位面積当たりの果実収量が増加することが明らかとなったことから,ほぼ目的は達成されている.しかし,光質とイチジク果皮中のアントシアニン蓄積との関係についてはやや判然としない部分も残っている.その要因として本実験で用いたLED光照射装置の光強度がやや弱いことが考えられ,同じく平成28年度に予定していた冬季寡日照条件下における樹全体へのLED光の夜間照射ならびに光質の違いが新梢成長,果実品質,果実収量および樹体内貯蔵養分に及ぼす影響に関する実験では,前述の実験で用いたLED光照射装置よりもより強い光を発せられる装置を用いており,イチジク果皮中のアントシアニン蓄積と光質との関係について再度検討する予定である.なお,この実験についてはこれから果実収穫期に入り,順次データが得られる予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に予定していた冬季寡日照条件下における樹全体へのLED光の夜間照射ならびに光質の違いが新梢成長,果実品質,果実収量および樹体内貯蔵養分に及ぼす影響に関する実験では,これから果実収穫期を迎えるため,果実品質,果実収量,樹体内貯蔵養分に関する調査を行う.また,光質と果皮中のアントシアニンとの関係を明らかにすることを目的に,未熟果あるいは未着色果皮を用いて,それらに赤色,緑色および青色LED光を強度をかえて照射し,それらの関連性を明らかにする実験を行う.また,前述の実験の結果から果実生産性が高いと考えられるLED光の光質を判断し,高栽植密度条件下での結果枝基部付近へのLED光の昼間照射が葉の光合成特性および新梢内部成分に及ぼす影響に関する実験を行う.この実験では,LED照射区と無照射区を設け,照射開始後,定期的に葉の光合成速度および新梢内部成分(糖含量,デンプン含量,無機成分含量)および新梢各器官の乾物重の変化を調査し,それらと果実品質および果実生産性との関連性を明らかにする.また,イチジク苗の育成に関する実験として,閉鎖型苗生産施設内で挿し木苗に赤,緑および青色LED光を照射し,照射開始後から展葉数5~6枚時まで定期的に,新梢長,新梢乾物重,根乾物重,葉の光合成速度,新梢内部成分(糖,デンプン,全窒素)を調査し,各波長域のLED照射がイチジク苗の形質および生理生態的特性に及ぼす影響を明らかにする.
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