イチジク養液栽培において,これまでの研究の中で挿し木当年に果実生産を可能とする栽培技術を確立してきたが,本研究ではより高い収量が得られる挿し木苗育成のための環境条件,および2年生以上の樹における栽培期間中の光環境条件の違いが果実の形質や品質,果実収量に及ぼす影響を検討した.その結果,冬季に挿し木し,底熱処理により発根のみを促進した挿し木苗を萌芽後に高CO2(1500 ppm)・人工条件下で育苗すると,温室内・太陽光条件下で育苗した場合と比べて,結果枝の着果率が高くなり,1樹当りの果実収量が増加することが明らかとなった.次に,2年生以上の樹を密植し(株間25cm),赤,青および緑色LED光を照射して栽培を行ったところ,果実の収穫時期は無照射に比べてすべてのLED光照射により早まる傾向にあり,特に赤色LED光の照射でその効果は高かった.LED光照射の有無に関わらず,収穫した果実の果実重,果径,可溶性固形物含量および1樹当りの収量には大きな違いは認められなかった.しかし,果皮中のアントシアニン含量は赤色および青色LED光の照射により高くなり,赤色LED光の照射では慣行(株間33cm)の樹の果実と同程度の値になった.一方,緑色LED光の照射は果皮中のアントシアニン含量にまったく影響を及ぼさなかった.次に1日における赤色LED光の照射時間帯が果実の形質,特に果皮中のアントシアニン含量に及ぼす影響について検討したところ,昼間,夜間および24時間照射の間に大きな違いは認められなかった.これらのことから,イチジクの着色促進には赤色LED光の照射が有効であること,また通常なら着色不良となるような栽植密度に高めても赤色LED光を照射すれば,十分着色した果実を得ることができ,単位面積当りの果実収量を約30%増加できることを明らかにした.
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