研究実績の概要 |
トマトの葉の水泡症は葉の表面が隆起し, やがて枯死する生理障害であり, UVカットフィルム下や人工光源下で発生する.本年度, クチクラ層の変化について透過型電子顕微鏡観察を行い, 水泡症が発生する条件でトマトを栽培し, クチクラ層の異常を簡便に識別する方法を応用し, その発生部位や生育ステージについて調査した.透過型電子顕微鏡でトマトの正常葉と水泡症を発生した葉を観察したところ, 正常葉のクチクラ層は, ワックスからなる上層, ワックス中にクチンを含む中間層, クチンとワックスに加え細胞壁の成分であるペクチン, セルロース, その他の多糖類から構成される下層により形成されていた. 一方, 水泡症部位の表層細胞では,中間層が肥大している部位や, 上層が薄くなった部位が観察され, クチクラ層が変化していることが明らかになった. 水泡症を発生した部位はトルイジンブルー水溶液で青色に染色され, 染色されない正常部位と簡易に識別できた. 人工気象器を利用した実験で, 播種後1週間の個体は4日間処理しても染色されず, 水泡症の発生は認められなかった. 2, 3週間後の本葉が展開を始めた個体では, 人工気象器で2日間以上の処理により水泡症が発生した. これらの個体における主な発生部位は展開途中の葉で, 生長点に近い葉ほど染色面積が少なく, 子葉や展開が終了した第1葉では水泡症は発生しなかった. 2~4葉は水泡症を発生した後, 枯死した. 以上のことから, 水泡症は葉面積を拡大している展開中の葉において発生し, 2日間という短期間処理でも発生することが明らかになった. また, 水泡症の発生は, 葉のクチクラ層の中間層の肥大, 上層の減少といった変化を伴い, トルイジンブルー染色が判別に応用できることが分かった.
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