研究課題/領域番号 |
16K07594
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松本 省吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (90241489)
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研究分担者 |
太田垣 駿吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (50597789)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 園芸学 / 野菜 / イチゴ / 花芽分化 / 促成栽培 / ランナー発生 |
研究実績の概要 |
栽培イチゴ苗‘とちおとめ’に、平成28年7月6日から8月10日にかけて、花芽分化誘導のための短日低温処理を施した。処理開始0日目から35日目まで5日ごとに経時的にサンプリングし、クラウン頂部のTFL1-1、TFL2、AP1遺伝子の発現解析をリアルタイムPCR法により行ったところ、TFL1-1が花芽分化と連動して発現低下したことから、栽培イチゴの花芽分化抑制因子であることが示唆された。このことは、カリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーターに連結した35S::FaTFL1-1をシロイヌナズナのtfl1変異体に導入した個体の表現型(花成遅延)からも支持された。また、FaFT3遺伝子についても同様に発現解析を行ったところ、花芽分化と連動して発現上昇したことから、栽培イチゴにおける花芽分化促進因子であることが示唆された。さらに、短日夜冷処理25日目の花芽未分化状態、41日目の花芽分化状態、比較対象として長日高温処理25日目、41日目の花芽未分化状態のクラウン茎頂部をレーザーキャプチャーマイクロダイゼクション法にて取り出し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。現在、花芽分化誘導時特異的に発現変動する遺伝子群の特定を進めている。一方、FaFT1遺伝子については、発現パターンから花芽分化と関連せず、ランナー形成への関与が示唆されていた。今回、35S::FaFT1導入シロイヌナズナが花芽分化促進ではなくエアリアルロゼット様を形成する表現型を示すことを再確認した。また、親株と子株がランナーで繋がった植物を育成し、子株のみに短日処理を施したところ、子株から花芽ではなくランナー発生する個体が見られ、親株からのFaFT1タンパク質供給の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、栽培イチゴ‘とちおとめ’の花芽分化誘導に伴い、クラウン頂部で花芽分化抑制因子であるTFL1-1遺伝子の発現低下、花芽分化促進因子であるFaFT3遺伝子の発現上昇が起こることを見出した。シロイヌナズナへの遺伝子導入実験から、実際に、TFL1-1は花芽分化を遅延させることを確認した。FaTFL3についても、シロイヌナズナへの導入実験を進めており、花芽分化促進を示唆するデータが得られつつある。また、レーザーキャプチャーマイクロダイゼクション法を用いてクラウン茎頂部特異的に花芽分化誘導時に発現変動する遺伝子群のトランスクリプトーム解析を行い、前述のTFL1-1、FaFT3を含め、花芽分化に関わる可能性のある新奇候補遺伝子群が得られつつある。さらに、ランナー形成への関与が示唆されるFaFT1については、野生種のFvFT1とわずか1アミノ酸の違いにより花芽分化促進機能が失われ、機能分化したと考えられた。以上、いくつかの興味深い知見が得られつつあるが、in situハイブリダイゼーションによるFaFT3とFaFDの発現部位の特定ならびにタンパク質の相互作用を見るまでには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえ、TFL1-1とFaFT3については、‘とちおとめ’で得られた結果が他の栽培イチゴにも当てはまるか調べ、栽培イチゴに普遍的であるか検証する。特に、間欠冷蔵法による花芽分化誘導においても短日低温処理と同様の結果が得られるか検証する。花芽分化促進因子であることが示唆されたFaFT3については、35S::FaFT3をシロイヌナズナに導入し、早期開花の表現型が見られるか引き続き検証する。また、in situハイブリダイゼーション法によりFaFT3とFDの発現部位を特定するとともに、両タンパク質が複合体を形成することをBiFC法などにより調べる。さらに、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析により、初年度に同定した花芽分化時に特異的に発現変動する遺伝子群については、RT-PCR法もしくはリアルタイムPCR法を用いて遺伝子ごとに個別発現解析を実施し、その発現プロファイルを明らかにする。一方、FaFT1については、ランナー発生に及ぼすFaFT1の影響を調べるため、栽培イチゴ‘とちおとめ’にFaFT1を発現させる系を確立する。初年度の親株と子株がランナーで繋がった植物を用いた実験については、FaFT1の挙動について、子株から発生したランナーを用いた発現解析やウエスタンブロットにより調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していたin siteハイブリダイゼーションによるFaFT3とFaFDのクラウン茎頂部での詳細な発現部位特定ならびにタンパク質の相互作用を見る実験を翌年度に実施することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に上記理由に記載した実験内容を実施し、経費を使用する予定である。
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