栽培イチゴ‘とちおとめ’に花芽分化誘導のための短日低温処理を施し、花芽分化と連動してクラウン茎頂部位にて発現上昇するFaFT3遺伝子と発現低下するFaTFL1-1遺伝子を見出した。具体的には、処理開始0日目から35日目まで経時的にリアルタイムPCR法による発現解析を行ない、花器官形成遺伝子であるFaAP1に先がけてFaFT3の発現上昇とFaTFL1-1の発現低下が起こることを確認した。両者について、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター制御下でシロイヌナズナ野生型もしくはtfl1変異体に導入して機能解析を行なったところ、FaFT3では早期開花性を、FaTFL1-1では開花遅延を示した。これらの結果から、FaFT3は栽培イチゴの花芽分化促進因子、FaTFL1-1は栽培イチゴの花芽分化抑制因子であることが示された。さらに、花芽未分化状態と分化状態のクラウン茎頂部をレーザーキャプチャーマイクロダイゼーション法にて取り出し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、花芽分化と正の相関が見られる、すなわち花芽分化誘導時にFaFT3と同様の発現変動をする遺伝子として、シロイヌナズナにおいて花芽分化誘導機能もしくは花器官分化に関与するAP1、LEAFY、AGL8 (FUL)、SEP2、SEP4ホモログ遺伝子が抽出された。一方、野生イチゴの花芽分化促進因子であるFvFT1の栽培イチゴホモログFaFT1は、その発現パターンから花芽分化と関連しないことが示唆された。35S::FaFT1導入シロイヌナズナが花芽分化促進ではなくエアリアルロゼットを形成する表現型を示したことから、FaFT1はランナー形成時すなわち栄養成長期に機能していることが示唆された。
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