研究課題/領域番号 |
16K07595
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
片山 寛則 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (50294202)
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研究分担者 |
吉田 康子 神戸大学, 農学研究科, 助教 (50582657)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 香気成分 / エステル / QTL解析 / 香りナシ / 香気関連遺伝子 / 遺伝子の単離 / AAT / MAS |
研究実績の概要 |
香り豊かなイワテヤマナシの在来品種‘ナツナシ’とニホンナシ栽培品種‘幸水’のF1集団を用いて香気成分に対するQTL分析を行い候補遺伝子を特定使用とする内容である。昨年度、‘ナツナシ’X‘幸水’のF1集団を用いて‘ナツナシ’、‘幸水’のSSRマーカーからなる連鎖地図を作成し、13種類の香気成分のQTLが‘ナツナシ’の LG2 (Linkage Group 2), LG9に検出された。QTL分析は年次変動が多いため今年度もデータを取得した。LOD3以上の香気成分のQTLは‘ナツナシ’で22種類、幸水で3種類となり、‘ナツナシ’では昨年の13種類から大幅に増えた。2年間‘ナツナシ’で検出できたQTLの多くはLG2、LG9に座乗するエチルエステル類、アルコールであり年次安定性があった。最も効果が大きいLG2のQTL近傍マーカーは香りナシ育種における選抜マーカー(MASマーカー)として期待できる。またリンゴのLG2にはエステル合成の最終段階で働くMdAAT1遺伝子が座乗しているとの報告があり、‘ナツナシ’でも同様の遺伝子がLG2に座乗していると予想した。‘ナツナシ’のAAT1遺伝子をマッピングするため‘ナツナシ’由来のAAT遺伝子の単離を試みた。AAT遺伝子はリンゴでは相同性が高い多重遺伝子群を形成している。リンゴのAAT遺伝子配列を参考にプライマーを設計し、‘ナツナシ’、‘幸水’のゲノミックDNAからAAT遺伝子群をクローニングしている。現時点で‘ナツナシ’由来のAAT遺伝子の大半が単離できており、マッピング可能なSNPs多型を探索中である。‘幸水’では3種類のうち2年続けて強く検出できたのはLG8に座乗するテルペン類のαーFarneseneのみだった。果皮色とαーFarnesene含量に強い正の相関があったことからコルク層の有無がテルペン含量に関与することが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数年(2年間)にわたり香気成分に対するQTLを検出した。エチルエステル、アルコール等の香気成分に対するQTLの年次変動は比較的小さく、効果の大きいQTLは2年続けて検出できた。また果皮色とテルペン含量(αーFarnesene)に正の相関があり、コルク層の有無がテルペン発現に関与するという想定外の結果も得られた。当初は‘ナツナシ’のLG2のQTLに連鎖するSSRマーカーを香りナシ選抜MASマーカーとして利用する予定だったが、連鎖地図上の位置からLG2にはAAT1遺伝子そのものが座乗している可能性が高くなった。そこでAAT1遺伝子をマッピングするため‘ナツナシ’由来のAAT遺伝子の単離を試みた。研究計画では次世代シーケンサーを用いてcDNA、ゲノミック由来の香気関連遺伝子を網羅的に単離する予定だったが、AAT遺伝子群は相同性が高い10個以上の多重遺伝子群を形成しているため、繰り返し配列に弱い次世代シーケンサーは使用せず、従来のPCRクローニングを行うことに方向転換した。現時点でマッピング可能なSNPs多型を探索するための‘ナツナシ’由来のAAT遺伝子の大半が単離、同定できた。以上のように当初の実験計画に変更を加えながらもおおむね順調に研究は進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はAAT遺伝子のマッピングによりLG2に座乗するAAT1遺伝子を特定する予定である。検出したAAT遺伝子群の遺伝子発現量をSNPs多型を用いたqPCR法により推定する。またAAT1遺伝子のMASマーカーとしての有用性についても検討する。これらの結果を国際誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定とは異なりSNP解析を行うための外注費用を繰り越した。候補遺伝子の特定方法が当初予定から変更されたため予想以上の出費に備えるための対策である。
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