研究課題/領域番号 |
16K07596
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金地 通生 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (90211854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 養液栽培 / 水耕栽培 / 噴霧水耕栽培 / 光合成 / レタス / トマト / 根毛 |
研究実績の概要 |
施設園芸生産における栽培法の高度化と省力化に資する新たな養液栽培法(システム化)の開発と実用化を目的として,株式会社いけうちとの共同研究開発を進めてきた新規な超微粒化液肥(平均水滴粒径10マイクロメートル:ドライフォグ)噴霧水耕栽培システムは,代表的な施設園芸作目(リーフレタス,中玉トマト,四季成り性イチゴ,切りバラ)の栽培生理学的な検証(成長量,収穫量,形態諸形質,生理諸形質)を経て,令和元年から実用型の一般販売が開始できる段階に達した。本基礎研究での成長の促進(収量増加),品質の向上(トマトの高糖度化),作期の拡大(夏秋イチゴ)を明らかにした実証実験に基づき,さらに栽培装置の改良を行ったことで,より軽量で省コスト,節水的な実用型栽培床(平均水滴粒径50~100マイクロメートル:セミドライフォグ1流体噴霧式,1ノズル/m間隔)を用いた温室施設での周年栽培試験を行った。調査項目として,セミドライフォグ養液の噴霧条件(超微粒化液肥の粒子径分布,噴霧流速)を変えて,成長速度,根の発育形態,光合成・蒸散速度,葉内成分含量を測定し,湛液水耕栽培と比較して本栽培法の特徴付けを明確にした. 本年度も再検証試験として夏季高温下での四季成り性イチゴ生産栽培に応用して,セミドライフォグ噴霧水耕栽培床内の根圏環境には蓄熱することがなく,夏場でも遮光およびフォグ細霧冷房と組み合わせて約25℃の根圏温度を保持したことより,根およびクラウン部の冷却効果によって晩夏での花芽分化が明らかに促進され,従来法である夏イチゴの冷水循環によるクラウン冷却栽培やランナー苗冷蔵栽培と同様の効果を実証確認した.また,冬栽培した中玉トマトでは,平均糖度(Brix)が12,最高糖度が16に達する果実が収穫でき,平均果実重も夏栽培の平均30gに比べて平均45gとなり,収量増に繋がる可能性を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初試験として開始したドライフォグ噴霧養液栽培(最も細かい粒滴径10マイクロメートル)システムをより低コスト型に改良した実用型超微粒化液肥(セミドライフォグ)噴霧水耕栽培システムにおいても,ほぼ同様の栽培特性(成長生理学的に及ぼす影響)を代表的な施設園芸作物種(リーフレタス,トマト,イチゴ)について明らかにできた. この結果を受けてメーカーでは本栽培法の栽培学的特徴(分枝根や根毛形成が促進した良好な根張りにより,養水分吸収力が増大して茎葉部および果実の成長も促進される)を十分に継承したより効率的な一般販売に繋がる省コスト実用型の開発(1流体噴霧式)が進み,実際の生産現場における実用可能な施設栽培技術としての確立段階まで進捗したと考えている. さらに本栽培法を従来の湛液水耕栽培法や根圏培地を用いた養液ドリップ灌水栽培法と比べた特徴である根圏が気中で非常に好気的な環境を活かしてフォグ噴霧調節による根圏環境の短期的変化(噴霧頻度,養液濃度,CO2施肥)の成長生理学的な影響を調査し,特に根圏CO2施肥(約1%濃度)によりリーフレタスおよびトマトの成育促進が明らかとなった.従来行われている施設CO2施肥栽培は冬期寡日照期間が殆どで,光合成能を高めることで成長促進を図る目的では非効率的であるが,高日照下で換気を頻繁に伴う夏期施設栽培ではCO2施肥栽培は適用できないのに対して,夏期フォグ噴霧養液栽培での根圏CO2施肥の適用に繋げられる栽培実験の新規性を新たに見出すことができた.すなわちフォグ噴霧養液栽培法の新たな栽培学的特徴付けを明らかにすることができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,新規な栽培学的理論に基づく新しい施設養液栽培システムを提案・構築・立証し,施設園芸作物の成長生理,形態,収穫物に及ぼす影響を学術的に明らかにすることを通じて,最終的には施設園芸生産における早期実用化に資する基礎科学的な知見を集積することにある.そのため開発メーカーとの一部共同研究体制の中で特に学術的検証側面を中心に進めている.これまでの研究成果を受けて,最終年では成果発表のための確証実験(根系の発達と養水分吸収能の向上,根圏冷却効果)を重ねると共に,前年度試験から本栽培法の新規な特性となるであろう根圏CO2施肥の栽培生理学的特性の解明を中心に進める。 植物の光合成能の促進を図るために地上部(茎葉部)周辺空気のCO2濃度を高めて気孔からのCO2取込効率を増加させるCO2施肥栽培が施設全体を密閉して一般的に行われている.一方で根圏空間だけにCO2施肥することで蒸散流によって牽引される根からの水分吸収と共に導管を通じて茎葉部に取り込まれるCO2がそこでの光合成能を高めるために利用される可能性についてはこれまでに研究例は非常に少ない.昨年度での根圏CO2施肥実験ではリーフレタスおよびトマトの成育促進が明らかとなっており,その成長生理学的な検証は学術的にも非常に新規性が高いと考えられ,具体的にはCO2施肥濃度を設定して,植物の成長速度並びに無傷葉によるCO2取込速度および蒸散速度(LI-6400によるガス拡散法),ストレス等への影響をクロロフィル蛍光反応の測定(MINI-PAM-II/Rによる蛍光消光測定)から論じることで成長生理学的な影響の解明に繋げる.
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