研究課題/領域番号 |
16K07601
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
清水 圭一 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (30305164)
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研究分担者 |
橋本 文雄 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (70244142)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トルコギキョウ / トランスポゾン / 分子育種 / 突然変異 / 花卉 / 花色 / 花色育種 |
研究実績の概要 |
トルコギキョウのトランスポゾンdTeg1が育種の突然変異源として利用可能かどうかを調査するため、簡易トランスポゾンディスプレイ(TD)法を行った。 TD法の条件をいくつか検討し、30cm程度の高さのミニゲルでDNA-PAGEを行い、染色はCYBRGoldを使うことで、シークエンス用泳動層のような高価な装置を使うことなく、簡易で高感度な検出を行うことができた。 トルコギキョウの斑入り花品種‘スピカロマン’を46個体生育させたところ、35個体で斑入り花、10個体で斑入りのない全色の薄紫色花個体、1個体で全色の濃紫色花個体が現れた。これらのうちの40個体において、上記のTD法を行ったところ、およそ20-25本の再現性のあるバンドが観察された。また、dTeg1様配列が新たな位置に挿入したと考えられるユニークなバンドを持っている個体が14個体確認された。これらのうち新たに出現したバンド5つを単離して配列を決定したところ、そのうちの1つは遺伝子のコード領域に挿入されていた。また、これらのバンドを持つ個体のうち2個体では、ユニークバンドが後代に遺伝していることが確認された。これらの結果は‘スピカロマン’においてdTeg1が活発に転移しており、転移により起こった変異が後代に遺伝していることを示している。斑入りの無い全色個体ではF3H遺伝子に挿入されていたdTeg1様配列が離脱しているのが観察された。離脱した後の配列を解析したところ、F3H遺伝子の塩基配列に欠失が起こっており、これが斑入りが無くなる原因と考えられた。 この他にも、斑入りの遺伝様式を調査するため、‘スピカロマン’と全色の系統で交配を行い、得られた種子を育成中である。また、‘スピカロマン’以外でのトランスポゾンの分布や活性を調査中である。組織培養や放射線処理などがdTeg1を活性化させるかどうかの調査も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
‘スピカロマン’の斑入りの遺伝様式の調査に関しては‘スピカロマン’の斑入り花と全色系統2-3系統とを交配し、F1種子を採種し播種を行った。 dTeg1の新たな挿入の有無とゲノム中での挿入パターンの系統間差異の調査に関しては、トランスポゾンディスプレイ法を適用した。その結果、 品種‘スピカロマン’における挿入パターン調査はおおむね完了した。野生種や栽培種由来の系統のdTeg1の挿入パターンは現在調査中である。現在のところ、dTeg1の挿入部位の数が多い系統は見つかっていない。 dTeg1の転移を活性化させる実験に関しては、‘スピカロマン’で組織培養や放射線照射を行った個体を現在育成中である。 斑入りが固定しない原因の調査に関しては、‘スピカロマン’の自殖後代に現れた斑入りの無い薄紫色または濃紫色の全色の個体を得た。これらの個体からはDNAを抽出し、全色薄紫色個体には、すべてトランスポゾンが挿入されていないことを確認した。一部の個体ではF3H遺伝子に欠失が起こっていることを見出した。また、これらの全色個体では自殖を行い、現在次世代の個体を育成中である。
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今後の研究の推進方策 |
1年目はTD法によって、トランスポゾンが品種‘スピカロマン’のゲノム中にどのように分布しているのかをある程度明らかできた。さらに、トランスポゾンが新たな位置へ転移していることを見出し、それが後代に遺伝していることを示唆する結果を得ることができた。今後は、他のトルコギキョウの品種でも同様な転移が観察されるかどうかの調査を行う。また、品種‘スピカロマン’と他の品種との交配実験によって斑入りの遺伝様式の調査も行う予定である。 ‘スピカロマン’の後代で斑入りの無い全色個体が現れる原因の調査では、F3H遺伝子に挿入されていたトランスポゾンが、斑入りの無い個体では離脱しているのが観察された。さらに、トランスポゾンの離脱によってF3H遺伝子の塩基配列に欠失変異が起こっていることが、数個体の全色花個体で観察された。今後は、これが斑入りが無くなり全色花となる原因であるかどうかを確定するため、さらに多くの全色花個体で塩基配列の詳しい調査を行っていく予定である。また、これらの全色個体では自殖を行い、現在次世代の個体を育成中である。 放射線照射個体や組織培養を行った個体についての解析は次年度以降行う。放射線照射や組織培養によって転移の活性化が起こらない場合は、他のストレス処理やDNAのメチル化に影響を与えるアザシチジンなどの試薬の使用を検討する。
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