カット青果物の酵素的褐変は、Phenylalanine-ammonia lyase(PAL)、Polyphenol oxidase(PPO)あるいはPeroxidase(POD)の活性が、切断により増加することで引き起こされる。本研究では、青果物に付着する微生物の観点から酵素的褐変現象を捉え、特定の微生物が、褐変関連酵素の生成を介して褐変を誘導するスペキュレーションを立てている。 昨年度までに、カットジャガイモ、カットリンゴおよびカットレタスでは、非褐変部位よりも褐変部位において、PPO活性が高く、褐変部位にのみ存在する細菌があることを見出した(ジャガイモ褐変部位から検出のPsedomonas fluorescensおよびリンゴ褐変部位から検出のHerbaspirillum huttiense)。それぞれの菌株をカットジャガイモおよびカットリンゴに接種したところ、カットリンゴでは褐変程度および各酵素活性に影響を及ぼさなかったが、カットジャガイモでは、接種後にPPO活性の増加が見られ、PPOの遺伝子発現量が増大することが認められた。 本年度は、P. fluorescensの接種実験と除菌実験を行い、カットジャガイモの褐変現象のメカニズムを追求した。接種実験では、P. fluorescens菌体も細菌PPOを生成したが、P. fluorescens接種後にジャガイモPPO(StuPPO)の遺伝子発現量が増大したことから、カットジャガイモの褐変現象は、P. fluorescensがジャガイモPPOの生成と活性を刺激し、植物の微生物による侵入・増殖に対する防御作用の結果であると判断した。また、殺菌剤を用いて菌数を低下させたカットジャガイモでも、ジャガイモPPOの活性が増加し褐変が誘導されたことから、褐変現象は微生物の増殖を抑制する植物の自己防御作用として働くことを裏付けた。
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