本研究では、カンキツ類の多胚性種子にみられる珠心細胞から体細胞胚を発生する胞子体アポミクシスの制御を分子レベルで解明する。多胚性遺伝子座のドラフトシーケンスから推定される79個の遺伝子の中から、多胚性種子形成に関わる遺伝子を単離してその機能を明らかにする。これまでにマイクロアレイ解析等で多胚品種特異的に発現する候補遺伝子の全長遺伝子CitRKD1をウンシュウミカンから単離し、2種類の構造の異なるアレルの塩基配列を決定した。CitRKD1の2種類のアレルのゲノム構造を解析したところ、多胚性のアレルの上流域に約190bpsのMITE型のトランスポゾンが挿入されていました。多胚性は単胚性に対して遺伝的に優性で、トランスポゾンが挿入された多胚性型のCitRKD1を一つでも持つと多胚性を示すことから、トンスポゾンの挿入によりCitRKD1の発現が上昇することにより多胚性の種子が形成されると考えられる。 多胚性であるオレンジにおいて、遺伝子組換え技術によりCitRKD1の発現を抑制させたところ、単胚性の種子が得られ、この種子から生育した個体についてオレンジでヘテロ型を示すCAPSマーカーを用いて遺伝子型を調査した結果、種子親とは異なる遺伝子型示すことから、CitRKD1が多胚性を制御する遺伝子であることを確認した。 多胚性型と単胚性型のCitRKD1を判別できるDNAマーカーを開発し、国内で育成された95種類に及ぶカンキツの品種や系統を調査したところ、CitRKD1の遺伝子型と胚性は完全に一致しており、開発したDNAマーカーは幅広いカンキツにおける胚性の識別に利用できることを明らかにした。本研究で開発したDNAマーカーを用いることにより、カンキツの交雑育種において得られる実生個体から多胚性の個体を効率的に除去することが可能となる。
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