研究課題/領域番号 |
16K07610
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研究機関 | 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 |
研究代表者 |
小田 賢司 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所, その他部局等, 専門研究員 (10344409)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | モモ / 果肉褐変 / ポリフェノール / 遺伝子発現 / 品種間差 |
研究実績の概要 |
モモの果実を剥いたりカットしたりした際に観察される果肉の褐変現象は、見栄えが悪いだけでなく、モモの加工利用を制限する要因でもある。日本の栽培品種や海外品種など多様な品種の中からすりおろした成熟果肉の色の変化を指標に昨年度見出した褐変しにくい品種について、褐変程度を再度調査した。その結果、今年度は褐変度がやや高くなった品種があり、果肉の褐変は環境の影響を比較的受けやすい形質であると考えられた。昨年度褐変しにくいと評価され、今年度も褐変しにくいと評価された品種もあり、この品種を中心に以降の解析を進めることとした。昨年度、褐変のしにくさはポリフェノール含量が少ないことに起因すると考えられたことから、ポリフェノール含量が果実の成熟過程に従ってどのように変化するかを調査した。その結果、比較的褐変しやすい品種のポリフェノール含量がS3期前半あたりに向けて増加し、その後、収穫期に向けて漸減していくのに対し、褐変しにくい品種のポリフェノール含量はやはりS3期前半あたりにピークが認められるものの、その高さが極めて低く、ポリフェノール合成の少なさが褐変抑制の主要因であろうと推察された。これは、昨年度、比較的褐変しにくい岡山PEH7号の褐変抑制にはクロロゲン酸の分解が重要と推察されたことと異なっている。ポリフェノール含量が上昇する時期に果肉で発現する遺伝子のプロファイルを、比較的褐変しやすい品種と褐変しにくい品種の間で、RNAseq法により比較した。詳細な解析は今後必要であるが、褐変しにくい品種ではポリフェノール合成酵素遺伝子の発現低下が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、おおむね当初の計画通り実験を遂行できた。 昨年度、当初研究対象として考えた岡山PEH7号よりもさらに褐変しにくい形質を示す品種を複数見出した。このうちの少なくとも2品種は、今年度も褐変しにくい形質を示し、このうちの一つを中心に解析を進めた。ポリフェノール含量の経時変化を調べたところ、昨年度調べた岡山PEH7号はポリフェノールの合成は正常で分解が重要と考えられたこととは異なり、ポリフェノールの生合成が抑制されていることを示す結果を得た。RNAseqによる解析の結果から見ると、ポリフェノール合成酵素遺伝子の発現が抑制されている可能性があり、これはポリフェノール含量の経時変化の観察結果とよく一致している。今後はポリフェノール合成酵素遺伝子の発現抑制に関わる遺伝変異の探索を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、褐変しにくい品種について、ポリフェノール合成酵素遺伝子の発現の詳細解析や、ゲノム情報を利用した褐変関連遺伝子の品種間差解析を行う。 ポリフェノール合成酵素遺伝子の発現の詳細解析については、RNAseq解析により、褐変しにくい品種ではポリフェノール合成酵素遺伝子の発現低下が認められた。抑制された合成酵素遺伝子はポリフェノール生合成のほとんどのステップに対応している。これら合成酵素遺伝子の発現変動をRT-PCRにより経時的に調べ、生合成酵素の発現が全般的に抑制されていることを確かめる。 果肉褐変度の多様性に関わる遺伝子の解析については、本年度、褐変しにくい品種のゲノム配列を明らかにしたものの、変異箇所が多く、どの遺伝変異が褐変抑制に重要かは明らかでなかった。今年度は、褐変しにくい別の品種についてさらにゲノム配列を明らかにし、褐変しやすい品種との配列比較を行う。上記の生合成酵素の発現抑制が確認されれば、転写因子が関連する可能性が考えられ、果肉でS3期前半に発現する転写因子を中心に変異解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
褐変しにくい一つの品種のゲノム配列を受託解析により明らかにしたが、さらに別の品種は材料の調整が間に合わず解析できなかったので、次年度に解析を行うこととしたため。
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