本研究はムギに病害とカビ毒汚染を与えている赤かび病菌について、菌を防除するうえで重要な宿主体内での菌糸伸長に関わる遺伝子の解明を目的としている。昨年までに、宿主内菌糸伸長能を自然喪失している0233007株について、原因変異が存在すると推定される領域の遺伝子のうち、FGSG00728、FGSG00739、FGSG00785の読取枠に大きな異常が見られた。それらのうち、FGSG00739については2塩基欠失によるフレームシフトで読取枠に早期停止が生じていた。この遺伝子はNADPHオキシダーゼをコードすると推定されており、ムギ類赤かび病菌の文献を調査した結果、病原性に関与しているとの報告があることが分かった。そこで、野生株から上流域と下流域を含むようにFGSG00739をPCRで増幅して、糸状菌形質転換用のプラスミドベクターに挿入し、形質転換で0233007株に導入した。得られたFGSG00739導入株をコムギ穂に接種したところ、元株の0233007株とは違い、接種部位から病徴の広がりが認められるようになっていた。従って、0233007株における菌糸伸長能喪失の原因はFGSG00739の異常によることが判明した。FGSG00739の翻訳産物と推定されているNADPHオキシダーゼの活性をNitrotetrazoium Blue Chloride (NBT)染色により寒天培地上に増殖させたコロニーで検出したところ、野生株ではコロニー周縁部に、0233007株ではそれより少し内側に活性を意味する紫色の沈着が認められた。FGSG00739導入株では元株の0233007株とは異なり、野生株同様、周縁部に紫色の沈着が認められた。以上の結果から菌糸先端部のNADPHオキシダーゼ活性が宿主内菌糸伸長に必要であることが示唆された。
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