研究課題/領域番号 |
16K07613
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
高松 進 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (20260599)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | うどんこ病菌 / 常緑カシ / genotype / 種分化 / 地理的分布 / 宿主 |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、アラカシ、シラカシ、ウラジロガシ等に発生するErysiphe属うどんこ病菌Erysiphe gracilisには少なくとも4つのgenotypeが存在することが明らかになった。日本各地からカシ類Erysiphe属うどんこ病約300標本を採集し、これら4 genotype間の地理的分布を調査したが明瞭な差異が認められず、むしろ宿主である常緑カシ類の種によって出現するgenotypeに違いがあることがわかった。すなわち、E. gracilis種複合体の種分化には地理的隔離よりも、宿主による遺伝的隔離がより強く関与したと考えられた。29年度はこれら 4 genotypeの形態を詳細に観察した結果、genotype間に明瞭な形態的違いが認められたため、E. gracilisをE. hiratae、E. uncinuloides、E. gracilis s. str. およびE. pseudogracilisの4種に分割することを提案した。さらに、アカガシ、ツクバネガシに出現するE. gracilis var. longissimaは2つの明瞭なgenotypeに分割され、形態的にも違いが認められたので、E. longiappendiculataおよびE. longifilamentosaの2種に分割することを提案した。以上により、日本で常緑カシ類に発生するE. gracilis(変種を含む)は6種に分割されることになった。本研究実施中に、アラカシ、シラカシに未記録のうどんこ病菌が発生することを発見し、形態およびDNAシークエンス解析によりこの菌が落葉ナラ類に発生するE. quercicolaであることを明らかにした。これは常緑カシ類にE. quercicolaが寄生する世界で初めての記録であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シークエンス解析およびPCR-RFLP解析の手法を用いて、常緑カシ類に寄生するErysiphe gracilis(変種を含む)が6つのgenotypeによって構成される複合種であることを明らかにし、形態的にも異なることからこれらをそれぞれ独立した種とすることを提案した。それらの地理的分布を明らかにするため、茨城県以西の各地から約400個のE. gracilis標本を収集し、genotypeを決定した。その結果、genotypeの種類とそれらの地理的分布の間に明瞭な因果関係を見いだすことができなかった。一方、カシ類の種とそこから検出されるgenotypeとの間には明瞭な関係が存在し、genotypeの分化に宿主範囲の違いによる遺伝的隔離が強く関わったことが示唆された。以上の研究により、わが国で常緑カシ類に発生するE. gracilis種複合体に含まれるgenotypeおよびその分類学的な整理はほぼ終了し、次のステップに移行する準備が整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アラカシ、シラカシなどの常緑カシ類は住宅地の生垣や庭木などで植栽され、景観植物として重要であるが、うどんこ病の発生により、その景観が著しく損なわれている。本研究はカシ類うどんこ病の防除対策についての基礎資料となると考えられる。これまでの研究により、カシ類に発生するE. gracilis種複合体は6種に分割され、さらにE. quercicolaも出現することがあらたに明らかになった。したがって、E. gracilis種複合体、E. quercicolaおよびCystotheca wrightiiの3うどんこ菌群がわが国で常緑カシ類に発生することが明らかになった。しかも、これら3菌群はしばしば同一のカシ樹上に発生する。これまでの予備調査により、これら3菌群の生活史はそれぞれ異なることがわかっており、うどんこ病菌の防除のためにはそれぞれの生活史を把握することが肝要である。そこで、平成30年度は、三重県津市の三重大学キャンパス内および住宅地の生垣に定点を定め、これら3菌種の生活史を継時的に調査することを行う。これにより、これらのうどんこ病菌がカシ類にどのように適応してきたのかを明らかにしようとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA塩基配列解析を行った材料が予定よりも少なかったため。次年度は未解析の材料についてDNA塩基配列解析を行うための消耗品費として使用する予定。
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