研究課題
(1)AVR-Pi9およびAVR-Pibのいもち病菌集団における分布およびゲノム環境調査遺伝子の分布を、アジア産等のイネ菌を用いて調査した。全ての菌株がAVR-Pi9を保有していたが、AVR-Pibについては、1菌株が遺伝子を欠失させており、東南アジア産の1部の菌株において遺伝子ORFにDNA型トランスポゾンが挿入されていた。両遺伝子周辺はrepeat配列は少なく、菌株間で構造が高く保存されていた。非イネ菌については、両遺伝子がいもち病菌集団において広く保有されていたが、一部の菌はAVR-Pibを保有していなかった。これらは病原力エフェクター遺伝子として重要な機能を担っている可能性が示唆された。特にAVR-Pi9については、Pi9保有イネ品種の大規模作付け等による強い選択圧にさらされてこなかった可能性がある。(2)TALENによるAVR遺伝子の異なるゲノム環境への導入repeat rich領域とrepeat poor領域に存在する遺伝子の変異性を比較するため、TALENによりAVR-Piaをrepeat rich領域およびrepeat poor領域に導入し、各形質転換体をPi-a保有愛知旭に接種し、再分離菌のAVR-Pia変異様式と出現頻度を調査した。その結果、AVR-Piaのrepeat rich領域導入菌の方が、repeat poor領域よりも変異菌の出現頻度が有意に高かった。両者の再分離菌におけるAVR-Piaの変異機構を調査したところ、repeat rich領域導入菌では数kbのAVR-Pia欠失が起こっており、repeat poor領域においては20個の遺伝子を含む約92kb以上の領域が欠失していた。欠失領域の境界には転移因子が存在する傾向にあり、大規模な欠失は転移因子間の距離によることが推察された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画のとおり、平成29年度は、新たにクローニングされたAVR-Pi9およびAVR-Pibのいもち病菌集団における分布と変異機構・頻度について調査した。これらがともに、非イネ菌も含むいもち病菌にとって重要な遺伝子であることが示唆され、両者ともrepaet poor領域にあることが示された。これらのことから、これらに対応する抵抗性遺伝子Pi9およびPibは、少なくとも日本の稲作においては抵抗性の持続性が期待されると考えられたため、本研究結果の農業への貢献が大きく期待される。また、TALENによるAVR遺伝子の異なるゲノム環境への導入実験では、repeat rich領域、repeat poor領域のいずれに非病原力遺伝子を導入しても、遺伝子欠失による病原性変異菌が出現した。欠失領域の規模は、非病原力遺伝子周辺の転移因子間の距離に比例することが示唆されたが、この領域にどのていど重要な遺伝子が含まれているかも、変異菌が自然界で定着できるかを決める要因となっている可能性が考えられた。このことは、当初の仮説である、「非病原力遺伝子がrepeat rich領域に存在する場合は変異菌が出現しやすく、repeat poor領域に存在する場合は変異菌が出現しにくい」ことと矛盾していない。つまり、repeat poor領域に存在する非病原力遺伝子に対応する抵抗性遺伝子に着目し、抵抗性育種に利用すれば、その持続性が期待できる。当初、メヒシバ菌からイネ菌へのAVR遺伝子のHorizontal Transfer(再獲得)の再現実験を行うことを予定していた。メヒシバ菌の Inago1-AVR-Pita2-Inago1 領域に選抜マーカー( hph遺伝子)のTALENによる導入を試みているが、この領域はrepeatの密度が非常に高く、遺伝子導入が困難であるため、形質転換体が未だ得られていない。
平成30年度は、上記の(1)(2)については実験データの精査と論文投稿準備を行う。再獲得再現実験については、引き続き形質転換体作出を試み、筆者の所属が変わったため、現在実験室のセットアップと遺伝子組み換え生物使用の手続きを行っているところで、準備が整い次第実験を再開する。
平成29年度末で神戸大学を退職し、平成30年度から帯広畜産大学に赴任することになったことに伴い、平成29年度末の数ヶ月間、実験を一時停止した。そのために予算を使い切ることができなかった。平成30年度は前年度末に行う予定だったDNA解析キットと、新規実験機器(冷蔵庫)の購入、国内出張費、論文投稿費として使用することを予定している。
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Phytopathology
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Journal of General Plant Pathology
巻: 83 ページ: 344-357
Science
巻: 357 ページ: 80-83