研究課題
本研究は感染生理における最重要課題である過敏感(HR)細胞死のメカニズムを解明する研究である。ナス科植物では複数の抵抗性(R)タンパク質が誘導するHR細胞死に、MEK2が構成するMAPキナーゼ経路が介在している。しかしながら、本経路の制御因子や本経路以降HR細胞死までの機構は十分に解明されていない。本研究では、MEK2の構成的活性化(MEK2DD)によるHR様細胞死を抑制する青枯病菌エフェクターを探索し、エフェクターが標的としている細胞機能や因子を同定及び解析することで、課題の解明を試みる。申請者らは、MEK2DDの過剰発現により誘導されるHR様細胞死を、共発現により抑制する青枯病菌エフェクターを複数同定した。これらの中でclone 42を本研究の中心に据えている。clone 42 は、N末端領域の14-3-3タンパク質結合モチーフと、それ以外のヌクレオシド-2 リン酸類縁体(Nudix) hydrolase様ドメインから構成されている。clone42において、どの領域がMEK2DDの過剰発現により誘導されるHR様細胞死抑制に必須であるか明らかにするため、種々の変異型を作製し、HR様細胞死抑制能を解析した。また、MEK2DD誘導性HR様細胞死をclone42がどのような仕組みで抑制するかmRNAレベルやタンパク質レベルについて解析した。さらに、14-3-3タンパク質との結合やNudix様ドメインとHR様細胞死抑制能との関係を解析した。
2: おおむね順調に進展している
28年度の研究計画は、1)clone42によるMEK2DD誘導性HR様細胞死抑制がmRNAまたはタンパク質レベルで起きているのか解析する。2)clone42のN末端部分に存在する14-3-3タンパク質結合モチーフの必要性を解析する。3)Nudix様ドメインの必要を解析する。4)14-3-3タンパク質との結合を解析する、以上を上げていた。28年度の研究の結果、1)についてはclone42の発現が共発現遺伝子のmRNAレベル低下を招くことが明らかとなった。2)と3)についてはclone42に関する種々の欠損変異体を作製し、HR様細胞死抑制能を評価することで行った。その結果、14-3-3タンパク質結合モチーフやNudix様ドメインの活性中心と予測されるアミノ酸の置換によっても、clone42のHR様細胞死抑制に影響がみられなかったことから、これらは必須でないことが明らかとなった。4)についても解析を行った。以上の結果から、おおむね28年度の目標は達成されたと判断した。
今後の研究方針としては、青枯病菌のclone 42遺伝子破壊株の作製、及び植物への接種試験を行うことにより、clone 42が青枯病菌の病原性に関与するか解析を行う。植物に対して親和性の青枯病菌株を用いて、clone 42の遺伝子破壊株を作製する。野生株とclone 42の遺伝子破壊株を用いてベンサミアナタバコに接種を行い、両株間で病原性に違いがあるか解析する。clone 42のシロイヌナズナ過剰発現体作製エフェクターを多数保有する植物病原菌では、単一のエフェクターを破壊した場合でも、病原性に影響が現れないことが予想される。この場合の方策として、青枯病菌GMI1000株の接種を目的にclone 42を過剰発現する形質転換シロイヌナズナを作製する。本来であれば、本実験はベンサミアナタバコを使用すべきだが、ベンサミアナタバコでは長時間(4日以上)のclone 42の発現で、PR遺伝子の発現を伴ったクロロシスが起こる。この結果からclone 42はベンサミアナタバコによって弱く認識される可能性が考えられた。AvrAやPopP1などのエフェクターがタバコ属で広く認識されることから、clone 42も同様である可能性が高く、タバコ属植物での形質転換体の作製が困難であると予想した。なおGMI1000株はシロイヌナズナに対して親和性であり、病原性試験は可能である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Physiological and Molecular Plant Pathology
巻: 94 ページ: 47-52
10.1016/j.pmpp.2016.04.001