研究課題/領域番号 |
16K07617
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
市村 和也 香川大学, 農学部, 准教授 (70321726)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エフェクター / 細胞死 |
研究実績の概要 |
本研究は感染生理における最重要課題である過敏感(HR)細胞死のメカニズムを解明する研究である。本研究では、MEK2の構成的活性化(MEK2DD)によるHR様細胞死を抑制する青枯病菌エフェクターを探索し、エフェクターが標的としている細胞機能や因子を同定及び解析することで、課題の解明を試みる。 申請者らは、MEK2DDの過剰発現により誘導されるHR様細胞死を、共発現により抑制する青枯病菌エフェクターを複数同定した。これらの中でclone 42を本研究の中心に据えている。これまでの研究によりclone42のNudix様ドメインを含むC末端領域の欠損(clone42ΔC)では、HR様細胞死抑制、及びclone42単独発現によるクロロシスが不全となった。このことから、clone42のC末端領域がHR様細胞死抑制、及びclone42単独発現によるクロロシスに必須であることを明らかにした。また、clone42ΔC変異型は14-3-3タンパク質と結合したことから、14-3-3タンパク質はclone42過剰発現によるHR様細胞死抑制、およびクロロシスには関与しない可能性が示唆された。さらに、clone42各変異型を形質転換したアグロバクテリウムをベンサミアナタバコ葉に接種し、増殖を比較したところ、clone42ΔCを有するアグロバクテリウムは、野生型および他の変異型と比較してより高いコロニー数を示した。以上の結果から、clone42はベンサミアナタバコによって認識され、その認識にC末端領域が関与する可能性が示唆された。また、この発現コンストラクトによるアグロバクテリウムの増殖効率の違いが、コンストラクトによるHR様細胞死抑制やクロロシスの有無と関連すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
clone42各変異型で見られるMEK2DD誘導性HR様細胞死抑制やクロロシス誘導の違いについて、その主因を明らかにすること、また、これと14-3-3タンパク質との関係を明らかにすることを目的とした。まず、clone42がベンサミアナタバコにより認識される可能性を検証した。clone42野生型を単独で発現させた場合、ベンサミアナ葉ではクロロシスが観察された。各変異型では14-3-3タンパク質結合モチーフの変異型やNudix様ドメインの活性中心と予想されるアミノ酸を置換した変異型では、野生型と同様にクロロシスが観察された。一方、clone42ΔC変異型ではクロロシスが観察されなかった。この結果を受けて、野生型及びclone42各変異型を挿入したT-DNAベクターを有するアグロバクテリウムをベンサミアナタバコ葉に接種し、単位面積あたりのコロニー数を定量する接種試験を行ったところ、clone42ΔCを有するアグロバクテリウムは、野生型および他の変異型と比較してより高いコロニー数を示した。この結果から、clone42はC末端領域を介してベンサミアナタバコに認識され、その結果ベンサミアナタバコの防御反応を誘導し、結果としてアグロバクテリウムの感染効率が低下することで、共発現しているMEK2DDの発現効率が低下したと考えられた。この現象が、見かけ上のclone42によるMEK2DDのHR様細胞死抑制と観察された可能性が考えられた。 さらに、clone42野生型と上記の各変異型を用いて14-3-3タンパク質との相互作用をBiFC法にて解析したところ、全てのコンストラクトと14-3-3タンパク質が結合したことから、ベンサミアナタバコによるclone42の認識に14-3-3タンパク質は必須でない可能性が示唆された。以上の結果から、おおむね29年度の目標は達成されたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、青枯病菌のclone 42遺伝子破壊株の作製、及び植物への接種試験を行うことにより、clone 42が青枯病菌の病原性に関与するか解析を行う。植物に対して親和性の青枯病菌株を用いて、clone 42の遺伝子破壊株を作製する。野生株とclone 42の遺伝子破壊株を用いてベンサミアナタバコに接種を行い、両株間で病原性に違いがあるか解析する。 clone 42のシロイヌナズナ過剰発現体作製 エフェクターを多数保有する植物病原菌では、単一のエフェクターを破壊した場合でも、病原性に影響が現れないことが予想される。この場合の方策として、青枯病菌GMI1000株の接種を目的にclone 42を過剰発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。このclone42過剰発現体に、シロイヌナズナに対して親和性の青枯病菌を接種し、過剰発現体の病原抵抗性を解析する。 本来であれば、本実験はベンサミアナタバコを使用すべきだが、ベンサミアナタバコでは長時間(4日以上)のclone 42の発現で、PR遺伝子の発現を伴ったクロロシスが起こる。この結果からclone 42はベンサミアナタバコによって弱く認識される可能性が考えられた。AvrAやPopP1などのエフェクターがタバコ属で広く認識されることから、clone 42も同様である可能性が高く、タバコ属植物での形質転換体の作製が困難であると予想した。また、上記の相補的なアプローチとしてベンサミアナタバコに対し親和性の青枯病菌を元に作製されたclone42欠損株も確保する予定である。本株とベンサミアナタバコを用いて、病原性試験を実施する予定である。
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