研究課題
植物病原糸状菌が分泌するエフェクターは植物の細胞内へ侵入して免疫反応を抑制するが、病原性機能の分子メカニズムはまだよくわかっていない。本研究の目的は、オオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis f. sp. hordei)の新規の AVR エフェクターを同定して R タンパク質による認識機構及びその病原性機能を解明し、世界的に問題となっているコムギ黒さび病菌の問題解決に寄与することである。オオムギうどんこ病菌のプロテオーム解析によりすでに単離しているエフェクター候補のうち、APEC1が病原性を持ち、オオムギ表皮細胞内のある特定の細胞小器官に局在することを明らかにした。また、APEC1と共局在する宿主標的候補を得ており、病原性との関連性を解析している。AVRエフェクターとしてHR細胞死を起こすかどうかを調べる実験系(Wahara et al., JGPP 2017)をさらに改良し、オオムギ表皮細胞における細胞死率を半定量的および経時的に解析可能とした。プロトプラストを用いた細胞死アッセイ系についても実験設備を含め準備が完了した。シロイヌナズナpen3 eds1変異体にAPEC1を過剰発現させた形質転換体はT2世代を得ており、解析に着手している。以上に加え、国際共同研究として、我々の菌株(RACE1およびOU14)と世界各地の菌株のゲノムワイド関連解析により、Rタンパク質であるMLA1およびMLA13が認識すると考えられていたAVRa1およびAVRa3を新たに発見した(Lu et al., PNAS 2016)。現在はAPEC1とともに、改良したHR細胞死アッセイ系を用いてAVRa1およびAVRa13の認識機構の解析に取り組んでいる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、オオムギうどんこ病菌のプロテオーム解析により得られたエフェクター候補を中心としてAVRエフェクターの同定、認識機構および病原性機能の解明を計画していた。それと並行して、我々の菌株(RACE1およびOU14)とその他遺伝的バックグラウンドの異なる菌株のゲノムワイド関連解析を進め、Rタンパク質であるMLA1およびMLA13が認識すると考えられていたAVRa1およびAVRa13の同定に成功した。これらのAVRエフェクターの非病原型と病原型のアミノ酸配列の相違をもとに認識機構の解析が可能となった。加えて、これらAVRエフェクターがHR細胞死の指標となり得るため、今後のAPECのHR細胞死誘導能の評価が容易となった。
研究が当初計画の方向に進んでいるため引き続きAPEC1のHR細胞死実験を推進させる。APEC1の宿主標的候補がひとつとは限らないため、酵母2ハイブリッド法によりさらに標的を探索する。並行して、RNA-seq解析によりシロイヌナズナ過剰発現体において発現が変動する遺伝子群を解析し、病原性機能の解明に向けて多角的にアプローチする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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