研究課題/領域番号 |
16K07618
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
八丈野 孝 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (10404063)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オオムギうどんこ病菌 / エフェクター / ペルオキシソーム / HR細胞死 / 病原性 |
研究実績の概要 |
植物病原糸状菌が分泌するエフェクターが宿主植物の免疫反応を抑制する分子メカニズムについては不明な点が多く、とりわけ作物病原菌においての知見は未だ少ない。本研究では、オオムギうどんこ病菌の新規エフェクターを同定し、病原性機能を分子レベルで解明することを目的としている。 オオムギうどんこ病菌の付着器発芽管に含まれるタンパク質を網羅的に解析することにより、候補タンパク質としてAPEC1を単離している。APEC1がオオムギ細胞において侵入抵抗性を抑制することを明らかにしたが、本年度では、AVRエフェクターとして宿主に認識されHR細胞死を引き起こすかを主に調査した。構築したHR細胞死アッセイ系(Wahara et al., JGPP 2017)をベースに、昨年度共同研究で単離した新規AVRエフェクターであるAVRa1をポジティブコントロールとして、新たなアッセイ系を確立して解析した。異なるR遺伝子を持つオオムギ品種にパーティクルガンを用いてAPEC1を発現させ、GFP蛍光発現細胞数の減少を指標に細胞死率を解析したところ、既知のどのR遺伝子にも認識されないことが明らかとなった。したがって、APEC1はAVRエフェクターではないと強く示唆された。また、APEC1の宿主細胞内局在を解析した結果、ペルオキシソーム膜に局在することが明らかとなったため、局在に関与するアミノ酸領域の同定を行った。その結果、APEC1のC末端の数アミノ酸が局在を決定付けていることがわかった。さらに、APEC1を過剰発現させたシロイヌナズナ形質転換体を作製したところ、顕著な成長阻害および葉のクロロシスを引き起こすことが明らかとなった。この結果から、葉組織においては葉緑体とペルオキシソームとの相互作用を阻害する機能を持つことが示唆された。葉における病原性機能の解析を行うため、誘導プロモーター制御の発現体を作製している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた主な実験として、APEC1のHR細胞死誘導能の調査を計画しており、昨年度新たに発見したAVRa1をポジティブコントロールとして、GFP蛍光発現細胞の減少を指標とすることで達成することができた。また、APEC1シロイヌナズナ過剰発現体の作製を完了したが、予想していなかった成長阻害を起こしてしまった。そのため病原性についての解析を行うことができなかった点が計画を遅らせる原因となっているが、むしろ興味深い表現型であり、APEC1が植物細胞において何らかの影響をもたらす傍証となった。宿主細胞内局在について詳細に解析を行い、関与するアミノ酸領域を同定することができたため、オオムギ細胞内およびシロイヌナズナ個体における、局在性と病原性(表現型)についての解析を行うための基礎情報を得ることもできた。 オオムギうどんこ病菌の侵入後のAPEC1の局在を解析するために、免疫染色あるいは免疫電顕を行うことを目標としており、そのための特異抗体の作製に着手した。ペプチドを抗原として抗体の作製を試みたが、APEC1タンパク質をうまく認識することができず、抗体としては使えないことが判明した。APEC1タンパク質を合成し、抗原として抗体作製をする必要があると考えられたため、小麦胚芽無細胞タンパク質発現系にて、APEC1タンパク質を合成した。
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今後の研究の推進方策 |
APEC1のHR細胞死誘導能についての解析は完了したため、宿主細胞内局在の詳細な解析をさらに進め、病原性との関連性を明らかにする。また、APEC1のシロイヌナズナ過剰発現体が成長阻害およびクロロシス、葉の鋸歯化を示したため、葉組織における病原性機能の解析を行うことが出来なかった。その問題を解決するために、エストラジオール誘導性APEC1発現系統の作製を行う。 一方、オオムギうどんこ病菌はそもそも表皮細胞にのみ侵入するため、表皮細胞のみでAPEC1を発現させて解析する必要性が考えられた。シロイヌナズナにおいて表皮細胞のみで発現すると知られている遺伝子をサーチし、そのプロモーター制御下でAPEC1を発現させる形質転換体も作製する。得られたAPEC1発現形質転換体(野生型およびpen3eds1変異体バックグラウンド)に、オオムギうどんこ病菌だけでなく不適応型菌であるエンドウうどんこ病菌を接種し、侵入に成功するか調査する。 APEC1タンパク質の抗体作製については、小麦胚芽無細胞タンパク質発現系で合成したタンパク質を用いて抗体を作製し、免疫染色あるいは免疫電顕を行う。
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