植物病原糸状菌であるオオムギうどんこ病菌が宿主植物の免疫反応を抑制する分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、本菌の新規エフェクターを同定し、病原性機能を分子レベルで解明することを目的としている。 本菌の付着器発芽管に含まれるタンパク質を網羅的に解析することにより、候補タンパク質としてAPEC1(appressorial effector candidate 1)を単離している。前年度までに、APEC1が宿主による侵入抵抗性を抑制すること、AVRエフェクターとして宿主に認識される可能性は低いこと、宿主細胞内のペルオキシソームに局在すること、APEC1を過剰発現させたシロイヌナズナでは顕著な成長阻害およびクロロシスを引き起こすことを明らかにしてきた。本年度においては、APEC1の宿主標的因子を単離して病原性機能を解明することを目的として、APEC1-GFPをベンサミアナタバコ葉で過剰発現させ、相互作用するタンパク質を単離して質量分析に供した。その結果、ペルオキシソームに局在する酵素の1つが同定された。共免疫沈降法によりAPEC1とその酵素が相互作用するか確認した。その酵素は、植物ウイルスが感染する際にも標的とされるということが2018年に報告されており、オオムギうどんこ病菌についても、APEC1を宿主細胞へ送り込み、酵素活性を阻害することで侵入抵抗性をかく乱、抑制する可能性が示唆された。また、APEC1の病原性をさらに確認するとともに、さらなる遺伝学的解析を行うために、エストラジオール誘導性プロモーターあるいは表皮細胞特異的発現プロモーターで発現制御可能な形質転換シロイヌナズナを作成し、解析している。
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