研究課題/領域番号 |
16K07622
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井村 喜之 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50366621)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抵抗性 / ウイルス / 植物 / 遺伝子機能 / 複製 / 劣性因子 |
研究実績の概要 |
ズッキーニ黄斑モザイクウイルス(ZYMV)に対するキュウリの抵抗性を支配する劣性因子としてVps4に着目した。平成28年度の研究において、ZYMV抵抗性キュウリであるA192-18由来の変異型Vps4 cDNAをウイルスと共に罹病性キュウリである半白節成に発現させると、ウイルスによる病徴が現れずウイルス蓄積量も顕著に低減することを明らかにした。平成29年度ではA192-18由来Vps4遺伝子の変異とウイルス抵抗性との関係を明らかにすべく、1)PCR-RFLPによるキュウリのZYMV抵抗性の判別、2)Vps4遺伝子の人為的変異導入によるウイルス感染および蓄積量の変化を調べることとした。 A192-18由来のVps4遺伝子には2箇所の塩基変異があり、2番目の変異により制限酵素DraIの認識配列となることを見出した。そこで、半白節成とA192-18を交雑させたF2集団からゲノムDNAを抽出し、Vps4遺伝子のMIT領域をPCRにて増幅した後、DraI消化によるDNA断片長を比較することとした。その結果、長短1本ずつのバンドが現れたヘテロ型と長鎖のみの優性ホモ型、短鎖のみの劣性ホモ型に区分でき、優性ホモ型およびヘテロ型のすべてにウイルス感染による病徴が観察された一方で、劣性ホモ型ではすべて病徴が現れなかった。すなわち、Vps4の変異とウイルス感染に対する表現型が完全に一致した。 次に、A192-18由来のVps4 cDNAの2箇所の変異のそれぞれ1箇所を罹病性キュウリ由来の配列に変異導入し、ウイルスと共発現させた結果、2番目を塩基置換するとウイルス感染による病徴が発現し、蓄積量の低減も見られなくなった。反対に、罹病性キュウリ由来のVps4 cDNAの2番目をA192-18由来の配列に置換したところ、ウイルス蓄積量が有意に低減し病徴も発現しないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一目的は、ウイルスに対するキュウリの新奇な劣性抵抗性を支配する遺伝子を特定することであり、平成28年度の一連の研究からタンパク質の液胞輸送に関わるVps4をコードする遺伝子を絞り込むことができた。次に、Vps4とウイルスに対する劣性抵抗性との関係性を明らかにすることを目指し、平成29年度ではウイルス抵抗性キュウリ由来のVps4遺伝子に見られる変異とウイルス抵抗性の関係を調べた。ウイルス罹病性キュウリと抵抗性キュウリを掛け合わせたF2集団を用いたPCR-RFLP解析により、抵抗性キュウリ由来の変異型Vps4をホモで持つ個体のみが、ウイルスに対して強度な抵抗性を示すことが判明した。さらに、変異型Vps4を罹病性キュウリにウイルスと共発現させるとウイルス蓄積量が顕著に低減し、反対に罹病性キュウリ由来のVps4を抵抗性キュウリに発現させると、ウイルスが複製・増殖できるようになった。これらの結果はVps4がウイルスに対するキュウリの劣性抵抗性を決定づける因子であることを強く示唆するものである。 次に、Vps4遺伝子の変異と抵抗性との関係を明らかにするため、変異型Vps4 cDNAの2箇所の変異のうち、1箇所ずつを罹病性キュウリ由来の配列に置換し、ウイルスと共に罹病性キュウリに発現導入した。同様に罹病性キュウリ由来Vps4 cDNAに抵抗性キュウリ由来の変異を導入し、ウイルスとともに発現誘導した。病徴発現および定量RT-PCRによるウイルス蓄積量の解析結果より、2番目の塩基変異によってウイルス蓄積量および病徴の発現が劇的に変化することが判明した。 以上の平成29年度の一連の研究成果によって、1)Vps4がキュウリのウイルス抵抗性を支配していること、2)Vps4遺伝子の1塩基の変異がウイルス抵抗性を決定づけることが明らかとなり、当初の計画通りに順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度および29年度の研究成果により、当初の計画通りVps4遺伝子の1塩基の変異がキュウリにおけるウイルス抵抗性を決定づけることを明らかにした。すなわち、罹病性キュウリではVps4はウイルスの複製および増殖に利用される一方、抵抗性キュウリではVps4遺伝子の変異によりウイルスが複製に利用できなくなるものと推察される。そこで、平成30年度では、罹病性キュウリ由来のVps4がどのようなメカニズムによりウイルス複製に関与するのか、さらには抵抗性キュウリ由来Vps4遺伝子の変異がどのようなメカニズムでウイルス複製を拒止するのかを解明することを目指している。方法としては、酵母を用いたタンパク質間相互作用解析により、Vps4タンパク質と物理的相互作用するウイルスタンパク質を特定する。さらに、Vps4タンパク質を含むウイルス複製複合体を構成する宿主タンパク質群を明らかにする目的で、罹病性キュウリ由来cDNAライブラリーを用いたスクリーニングにより、ウイルス感染時にVps4と相互作用する宿主タンパク質を上述と同じ酵母ツーハイブリッド解析により特定することを目指す。特定したウイルスタンパク質および宿主タンパク質と変異Vps4タンパク質の物理的な相互作用の可否についても、同手法により明らかにする。H29年度の研究結果から、Vps4のC末端にヒスチジンタグ(6xHis)を付加したタンパク質はタグの付加による機能の差異が見られず、正常にウイルス抵抗性/罹病性に関与することを明らかにしている。そこで、Vps4+6xHisタンパク質をウイルスと共発現した組織からタンパク質を回収し、ヒスチジン抗体を用いたVps4結合タンパク質群の精製も並行して遂行することを計画している。
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