研究課題/領域番号 |
16K07625
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 好秋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80155689)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脱皮ホルモン / エクダイソン / インシリコスクリーング / 分子動力学 / 脱皮ホルモン受容体 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究において,40個の脱皮ホルモン様活性化合物について,結合自由エネルギーと受容体結合親和性が相関することを明らかにした.すなわち,シロイチモジヨトウの脱皮ホルモン受容体(SfEcR)のリガンド結合部位(LBD)を,立体構造が明らかなタバコガの脱皮ホルモン受容体リガンド結合部位(HvEcR-LDB)から構築した.SfEcR-LBDに対して,40個の脱皮ホルモン様活性化合物をドッキングさせて200 psの平衡化を行ったのち,150psのMD シミュレーションを3度行った.それぞれ1 psごとにスナップショットをとってMM/PBSA法を用いて結合自由エネルギー(deltaG)を計算した.細胞を用いて測定した受容体に対する結合親和性(pIC50)とインシリコで計算したdeltaGとの間には相関関係が認められた.さらにリガンド分子のコンフォメーションの自由エネルギーを計算して,それを計算値のdeltaGに加算したところ,pIC50との相関関係が上昇した.この結果をインシリコスクリーニングに取り入れることによって高確率で新規化合物が得られると考え, 380万化合物の構造データーベースからスクリーニングを行った.まず,FREDというオープンアイ社の提供するドッキングソフトを用いたドッキングスクリーニングによって,ドッキングスコアの高いものから5000化合物を選抜し,上記のMM/PBSAモデルを用いて再スコアリングを行って12化合物を選抜した.これらの化合物の活性を細胞系を用いて測定したところ,5つの化合物において,顕著な活性が認められた.その中で最も活性の高かった化合物のIC50値は9.6 uMであった.この化合物の基本構造は2つの環構造がアルキルアミド結合で架橋された簡単な構造で,構造展開が容易である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非ステロイド型の脱皮ホルモン様活性化合物であるジアシルヒドラジン(DAH)が結合したタバコガの受容体(HvEcR)の立体構造は,X線結晶構造解析によって2003年に明らかにされている.また,学術論文としては発表されていないが,同じ受容体に対してDAHとは構造の異なるイミダゾール型化合物(IMD)が結合したX線結晶構造が得られている.IMDのリガンドー受容体結晶構造は,DAH結合型に比べて解像度が良いことから,それをテンプレートにしてシロイチモジヨトウの脱皮ホルモン受容体(SfEcR)のリガンド結合部位(LBD)の立体構造を構築した.様々な非ステロイド化合物(われわれのグループで合成し定量的に活性評価を行った化合物)をSfEcR-LBDに対してドッキングさせて,MDを行って,MMPBSA((Molecular Mechanics - Poisson Boltzmann Surface Area method)法を用いてリガンドー受容体結合エネルギーdeltaGを計算した.シロイチモジヨトウから樹立された培養細胞(Sf9)と脱皮ホルモン受容体のリガンドであるPonasterone Aの標識化合物([3H]Ponasterone A; [3H]PonA)をインキュベートし,その結合を50%阻害するに濃度IC50を算出して,その逆対数値pIC50を結合活性とした.deltaGに各分子のコンフォメーションの自由エネルギーを加えると,pIC50との間の相関関係が上昇し,インシリコで活性の予測を精度良くできることがわかった.次に,このMDとMMPBSAをインシリコスクリーニングに応用し,380万化合物の構造データーベースから12の化合物を選抜し,新規な構造を見出すことに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
インシリコスクリーンングで見出した最も高い活性化合物の構造展開を行う.この化合物は,2つの環構造がアルキルアミド結合で架橋された簡単な構造で,構造展開が容易である.また,天然の脱皮ホルモン類(ステロイド化合物)が結合する脱皮ホルモン受容体(Ecdysone receptor: EcR)のリガンド結合部位に結合する化合物の探索を行う.この際,ファーマコフォアベースのスクリーニング(structure-based virtual screening: SBVS)に加えて,リガンド構造の類似性をもとにしたスクリーニング(ligand-based virtual screening: LBVS)も行う.非ステロイド型化合物に関しては,tebufenozideというジアシルヒドラジン型化合物がすでに殺虫剤として実用されているが,ある種の昆虫ではtebufenozideに対する抵抗性が見つかり,そのEcRのLBDにアミノ酸変異が観察されている.そこで,その変異型EcRのLBDをインシリコで構築し,活性低下の原因を計算化学的に明らかにすることを目的とする.さらに,その変異型EcRに対するインシリコスクリーニングも行って,新規なリガンド構造を探索する.
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