研究課題/領域番号 |
16K07626
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
紙谷 聡志 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80274520)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 単為生殖 / ヒメヨコバイ / アオズキンヨコバイ / ボルバキア |
研究実績の概要 |
産雌性単為生殖を行うヨコバイ類に関して、とくに、沖縄本島においてマダラヒメヨコバイの一種Diomma sp.の調査を2018年4月20日および21日に行った。その結果、名護市に生育するウラジロエノキにおいて30個体のメス成虫を採集することができた。採集した個体は、一部をDNA解析用にエタノール固定を行い、残りはウラジロエノキの枝とともに飼育を行い、産卵を行わせた。さらに、本種を生かしたまま研究室に持ち帰り、インキュベーター内で栽培しているウラジロエノキ苗を餌として飼育を続けた。その結果、10日間の飼育が継続でき、すべてのメス成虫が死亡した。その後、孵化を待ったが、幼虫を得ることはできなかった。上述のヒメヨコバイはメスしか得られていないことから、これまでDiomma属と同定していたが、東洋区に分布するKusala属とも類似していることが明らかとなった。いずれの属に属するのかを決定するためには、オス交尾器あるいは分子情報に基づく検討が必要である。Kusala属には、K. colibria, K. datianensius, K. distinctaなど10種が知られているが、その中でも中国から記載されているK. dantianensisとベトナムから記載されているK. populiと斑紋が類似している。 次に、九州大学に収蔵されている標本コレクションについて調査を行った。九州大学コレクションは日本で高く充実していることから、日本産種の状態を最もよく考察することができる。これまで、記載をすることを目的として収集されてきたことから、性比についての考察はほんどなされてこなかった。そこで、ヨコバイ科中もっとも多様であるオオヨコバイ亜科およびアオズキンヨコバイ亜科について検討を行った。その結果、日本国内から未記載種が発見されたものの、メスに性比が著しく偏る種は確認されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、1)ヨコバイ科の他種における単為生殖の可能性、2)共生細菌除去個体への再感染・近縁種への水平伝播、3)半翅目天敵への水平伝播の可能性の3点について明らかにする予定である。このうち、本年度は1に関して、日本産ヨコバイ科の中で最大の亜科であるヨコバイ亜科について性比異常種に産雌性単為生殖をしている可能性が見つからなかったため、マダラヒメヨコバイの一種について、その寄主植物であるウラジロエノキの苗木を用いて、飼育を試みた。その結果、ウラジロエノキを用いた成虫の飼育は成功したが、産卵には至らなかった。このことから、次年度は産卵を促すような飼育設定を見直す必要が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、沖縄本島においてマダラヒメヨコバイを採集し、実験室で栽培しているウラジロエノキを用い、個別飼育を行い、産雌性単為生殖の確認を行う。さらに、Wolbachiaのwsp遺伝子のPCRを用いてオカモトフタテンヒメヨコバイと同様の共生細菌相が感染しているかを明らかにする。そして、生殖操作を行うことが知られている昆虫の共生細菌であるArsenophorus, Cardinium, Flavobactteria, Rickettsia, Spiroplasmaの感染の有無も明らかにする。 次に、共生細菌除去個体への再感染・近縁種への水平伝播を確認するために、まず、オカモトフタテンヒメヨコバイおよび近縁種フタテンヒメヨコバイの大量飼育系の確立を行う。これまでの問題点であった餌の不足を解決するために圃場整備を行い、恒温条件下で多数の個体を個別飼育するための機器の追加が必要である。炭酸ガス麻酔を行った成虫腹部から細胞質を吸引し、テトラサイクリンを投与して共生細菌を除去した幼虫、羽化24時間以内の成虫に、共生細菌混濁液をマイクロインジェクションし、再感染を試みる。最も、再感染の効率が良い方法を明らかにする。そして、これらの検証後、半翅目天敵への水平伝播の可能性について、天敵カメムシ類へ共生細菌混濁液をマイクロインジェクションし、水平伝播を試みる。ヨコバイ科の他種における単為生殖の可能性として、ヒメヨコバイ亜科、カンムリヨコバイ亜科についても性比調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(当該助成金が生じた状況)寄主植物であるウラジロノエノキ苗木を用いてマダラヒメヨコバイの飼育を行ったが、幼虫が孵化しなかったため、年度内に幼虫の飼育実験を行う環境が整備できず、次年度使用額が生じてしまった。 (使用計画)次年度4月にマダラヨコバイの採集を行い、再度室内でウラジロエノキを用いた個別飼育を行うとともに、野外で袋掛け飼育を行う。
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