研究課題/領域番号 |
16K07629
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
藤村 真 東洋大学, 生命科学部, 教授 (50297735)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 農業用殺菌剤耐性 / 遺伝子診断技術 / パイロシークエンス / サスペンジョンアレイ / キュウリ褐斑病 / 灰色かび病 / 複合耐性菌 |
研究実績の概要 |
農業用殺菌剤の耐性菌問題は深刻かつ複雑化しており、従来の遺伝子診断法では対応できなくなってきている。本研究では、パイロシークエンス法とサスペンジョンアレイ法の有用性を検証することを目的としている。 パイロシークエンス法を用いた定量的な遺伝子診断法の構築:本法は、単に変異検出だけでなく、混合DNAサンプルから耐性比率を定量的に算出できる可能性がある。これまでに、キュウリの主要病害である褐斑病菌(ベンズイミダゾール剤、QoI剤、SDHI剤)、うどんこ病菌(QoI剤、EBI剤)、べと病(CAA剤)の耐性変異を検出する診断系を構築した。キュウリ栽培で問題となる耐性菌をほぼ網羅した診断系が完成した。 シカルボキシイミド耐性メカニズムの解明:キュウリ褐斑病のジカルボキシイミド耐性変異を世界で初めて解明した。耐性変異は、ヒスチジンキナーゼ遺伝子の点変異であることを明らかにした。同変異を検出する遺伝子診断法も構築した。 サスペンジョンアレイ法を用いた同一溶液中での複数変異の同時判定法の構築:本法は、識別可能な複数種のマイクロビーズを用いて、その各ビーズ上で耐性変異の有無を識別し、フローサイトメトリーで一括検出する。これまで、殺菌剤の耐性変異の検出に利用されたことはほとんどなかったが、キュウリ褐斑病菌の3薬剤に対する6種類の変異(β-tubulin:E198A、E198N、F200Y、SdhB:H278R、H278Y、Cytb:G143A)を、12種類のビーズを用いて、同一溶液中で一括検出することができた。複雑化する殺菌剤耐性の解析に有効な方法であることが明確となった。 以上から、パイロシークエンス法とサスペンジョンアレイ法は検出原理とそれに伴う特長は異なるが、複雑化する殺菌剤耐性を圃場レベルで解析する新しいツールとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新しい遺伝子診断法であるパイロシークエンス法とサスペンジョンアレイ法を用いて、代表的な野菜であるキュウリとトマトの各種耐性菌の検出系を構築し、その有用性を検証することを目的としている。 パイロシークエンス法の研究は、予定どおり進展しており、キュウリ栽培で問題となっている各種病原菌の耐性変異検出系の構築がほぼ完成した。H29年度にはトマトの主要な耐性変異の検出系が完成する予定である。 副次的な成果として、キュウリ褐斑病菌のベンズイミダゾール耐性株の解析過程で、これまでに報告のない耐性変異を同定した。世界で初めての発見である。 サスペンジョンアレイについては、これまで、殺菌剤耐性変異の解析に使用されたことがほとんどないことから、当初計画では、H28年度はその準備期間としていた。しかし、検出原理の異なる2種類の手法として、ASPE (allele-specific primer extension)法とOLA(oligo ligation assay) 法を検討し、少なくともASPE法では、3薬剤に対する6種類の変異を同一溶液中で一括診断できることを明らかにした。様々な薬剤に対する複合耐性株を検出する手法として優れていることが明らかになった。 以上から、当初の計画以上に研究成果は得られているが、研究成果の発表がこれからとなるため、順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画どおりに研究が進展しており、今後も研究計画に沿って研究を展開する予定である。パイロシークエンス法では、キュウリ病害の主要病害で問題となっている耐性変異を検出する診断系がほぼ完成したので、今後は、トマトの病害を中心に新しく診断系を完成させる。さらに、本法は、混合DNAサンプルから耐性と感受性のDNA比を概算できることが期待され、圃場単位で有効な薬剤の選抜に利用できると考えている。そこで、この耐性菌比率の算出の精度について従来の定量法であるqPCR法と比較検討する。 さらに、サスペンジョンアレイ法が、多様化する耐性菌を一括診断できることがキュウリ褐斑病菌の各種薬剤耐性変異の検出で示された。そこで、この検出系の有効性をさらに検証するために、トマトやキュウリの重要病害である灰色かび病菌の各種耐性菌を検出する診断系を新たに作成する。これらから本方法の長所だけでなく問題点も含めて詳細に解析してゆく。
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