研究課題/領域番号 |
16K07637
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
坂本 一憲 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (10225807)
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研究分担者 |
園田 雅俊 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 助教 (70376367)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 二重共生系 / ストレス応答 / メタロチオネイン遺伝子 / ダイズ / 根粒菌 / アーバスキュラー菌根菌 |
研究実績の概要 |
平成28年度はダイズの二重共生系におけるストレス応答遺伝子の内、Type1メタロチオネイン遺伝子(GmMT1)について以下の検討を行った。実験に供試したダイズ(品種エンレイ)は温室内で栽培した。根粒菌はBradyrhizobium japonicum USDA110株、アーバスキュラー菌根菌はGigaspora rosea MAFF520062株を用いた。ダイズは6週間(開花期)および9週間(子実肥大期)栽培し、それぞれ根と根粒を採取した。 研究代表者である坂本は、RT-リアルタイムPCR法を用いてダイズの生育に伴う根および根粒中のGmMT1遺伝子の発現特性について調べた。根と根粒から抽出したtotal RNAを試料とし、リアルタイムPCR法に必要なGmMT1遺伝子増幅用のプライマーの設計や増幅条件の検討を行い、遺伝子発現量を測定することを試みた。その結果、根と根粒におけるGmMT1遺伝子発現を定量化することに成功した。根と根粒の子実肥大期のGmMT1発現量はいずれも開花期よりも高いことが明らかとなった。 研究分担者である園田は、GmMT1遺伝子の発現を誘導するシグナル物質を特定することを試みた。シグナル物質として活性酸素種のひとつである過酸化水素の検出と定量を試みたところ、過酸化水素の特異的染色試薬であるジアミノベンジジンを用いることで、根と根粒内の細胞で生成されている過酸化水素の検出に成功した。またインターネット上にあるソフトを用いた画像解析によって、ジアミノベンジジンによる細胞の染色度合を数値化できることがわかり、過酸化水素発生の定量化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ダイズの根粒・菌根二重共生系の成立に必須なストレス応答遺伝子の発現特性とその役割について解析を進めている。初年度である平成28年度はダイズの二重共生系において発現するストレス応答遺伝子の内、Type1メタロチオネイン遺伝子(GmMT1)の発現特性の実態解明と本遺伝子の発現を誘導するシグナル物質の検出と定量について検討を行った。これまでに得られた成果は以下のようにまとめられる。 1.GmMT1遺伝子の発現特性の実態解明:RT-リアルタイムPCR法を用いてダイズ根および根粒におけるGmMT1遺伝子発現量の測定するために、プライマーの設計やPCRの増幅条件の検討を行った。その結果、本法を用いて根と根粒におけるGmMT1遺伝子の発現を正確に定量化することに成功した。本法を用いてダイズの生育に伴う根と根粒におけるGmMT1遺伝子発現量の変化を測定した。その結果、根と根粒ともに子実肥大期のGmMT1発現量が開花期よりも高いことが明らかとなった。 2.シグナル物質の検出と定量:GmMT1遺伝子の発現を誘導するシグナル物質として活性酸素種のひとつである過酸化水素の検出を試みた。その結果、過酸化水素の特異的染色試薬であるジアミノベンジジンを用いることで、ダイズ根と根粒内の細胞で生成されている過酸化水素の検出に成功した。インターネット上にあるソフトを用いた画像解析によって、ジアミノベンジジンによる細胞の染色度合を数値化できることが明らかになり、本法を用いて過酸化水素発生の定量化に成功した。 以上のような種々の成果が得られたことから、本研究はおおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はダイズの二重共生系におけるストレス応答遺伝子のひとつであるGmMT1遺伝子の役割解明に関する以下の実験を行う。坂本は、根および根粒中の金属イオン(亜鉛・銅)含量と平成28年度に確立した方法を用いて過酸化水素発生量を測定し、GmMT1遺伝子が①共生菌の定着に伴う細胞内金属イオンの濃度変動を調整している可能性と、②共生菌の定着によって発生する過酸化水素(活性酸素種)の消去を行っている可能性を検討する。園田はGmMT1遺伝子の発現部位の解明を行う。まずGmMT1のプロモーター領域を増幅するプライマーを設計し、これを用いてダイズ根からプロモーター領域を含む配列を増幅する。GUS遺伝子を含むbinary vectorへこれを組み込み、さらにAgrobacterium rhizogenesへ導入する。ダイズの下胚軸に本菌を接種し毛状根を発生させる。毛状根に根粒菌と菌根菌を接種し、数週間生育させた後にGUS染色を行なって遺伝子の発現部位を特定、観察する。 平成30年度は、引き続きダイズの二重共生系におけるGmMT1の役割解明およびダイズのストレス耐性強化の可能性とその分子基盤について検討する。また平成30年度は最終年度であるため3年間の実験の取りまとめを行い、得られた研究成果は国内外の学会において逐次発表する。坂本はRNAi法を用いてダイズ毛状根の遺伝子発現抑制体を作出し、GmMT1の役割を解明する。園田は共生菌の接種によるダイズの環境ストレス耐性、特に重金属耐性の強化についてその可能性を調べる。また分子基盤としてGmMT1の遺伝子発現との関係を検討する。
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