研究課題
植物の乳管細胞は、植物体の他の細胞の隙間をぬって細長く伸長・分枝して植物体全体に乳管細胞ネットワークを張り巡らす (図1)。乳管細胞の内容物を乳液と呼び、そこには、天然ゴムの主成分ポリイソプレンに加えて、抗昆虫・抗微生物タンパク質(図2)あるいは化合物が大量に含まれる。細胞内圧力が高いため、食草昆虫等により植物体が損傷して乳管細胞ネットワークの一部が切断されると、乳液が大量に漏出し、昆虫・微生物等の外敵を攻撃する。乳管細胞は、推定40科20,000種もの植物に存在するが、アラビドプシスやイネ等のモデル植物には存在しないため基礎研究は大きく立ち遅れている。パラゴムノキ(トウダイグサ科)は、その乳液が天然ゴムの工業原料であるため国家戦略上重要な研究対象であるが、産地国による持出し規制と気候条件の問題のため日本で栽培できない。このことは、日本における乳液あるいは乳管細胞研究の致命的な障壁となっていた。申請者らは、上記の困難を克服して乳管細胞生理の理解を飛躍的に向上させるため、パラゴムノキの代わりに、国内でも栽培と乳液採取の容易なクワとイチジク(クワ科)、ミドリサンゴ(パラゴムノキと同じトウダイグサ科)をモデル材料に選んだ。本申請課題では、乳管細胞の高度に特化した防御機能に着目し、その分子生理のオミックスおよび生化学研究に取り組んだ。ミドリサンゴにおいては乳液と他の組織間での比較トランスクリプトームおよび半定量的プロテオームを実施し、乳液に抗微生物タンパク質と抗昆虫・動物タンパク質候補が大量に発現・蓄積していることを見出した。イチジクに於いては、3つの異なる器官から採取した乳液間の比較トランスクリプトーム・定量的プロテオーム・メタボローム解析を実施し、(おそらく各器官ごとに異なる外敵が想定されるためにそれに適応して)器官間で異なる防御タンパク質・化合物を蓄積していることを見出した。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
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