本研究では高濃度であれば植物に塩害を引き起こすナトリウムが、低濃度であれば植物の生育を促進しうること、またその仕組みについて調べることを目的とする。これまでにイネを用いてナトリウム施肥の効果を検証してきた。低濃度のナトリウム施肥により生育が促進される品種と塩害により生育が抑制される品種を用いた比較栽培試験を行ってきた。昨年度、生育促進品種を用いてナトリウム施肥後の根における網羅的発現解析結果を行った結果、オーキシン応答関連遺伝子群の発現誘導が見られた。リアルタイムPCRを用いて検証を行ったところ、ナトリウム施肥後の根におけるこれらの遺伝子の発現誘導が確認された。ナトリウム施肥とオーキシン合成やシグナリングについては、今後さらに検証を進める必要がある。また、ナトリウム施肥効果は生育促進イネ品種の根で顕著にみられるため、この遺伝学的背景を調べるために生育促進品種と生育抑制品種を用いて交配を行い、後代集団の育成を行った。塩生植物を用いた検証を並行して行ったところ、ツルナやオカヒジキ、ハママツナでナトリウム施肥による顕著な生育促進が見られた。これらの塩生植物ではナトリウム施肥後、茎葉部への積極的なナトリウム蓄積が見られたが、イネではそのような傾向が見られなかったことから、ツルナやオカヒジキのような塩生植物とイネのような中生植物では、ナトリウム施肥による生育促進機構は異なるものであると考えられた。
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