研究実績の概要 |
植物の根毛は、根圏土壌との相互作用において重要な役割を果たす。本研究では、根毛形成を制御するMYB転写因子CAPRICE (CPC)ファミリーの機能を解析し、根毛機能強化を目指した基礎研究を展開している。我々はこれまでにCPCの重要な機能として、細胞間移行すること等を明らかにしてきた。さらにCPCファミリーには、タンパク質分解が早いものとそうでないものがあることを見出した。そこで本研究では、タンパク質分解に重要なアミノ酸モチーフの特定を試みた。また、リン酸欠乏応答による根毛増加へのCPCファミリー遺伝子の関与を検証し、根毛発生制御モデルの構築を検討している。 アミノ酸配列の比較により、シロイヌナズナのCPCファミリーのうちタンパク質分解が早いTRIPTYCHON (TRY)とENHANCER OF TRY AND CPC2 (ETC2)は、他の3つのホモログ(CPC, ETC1, CPC LIKE MYB3)に比べて約20アミノ酸ほど長いC末端配列を持つことがわかった。この長いC末端配列に着目し、タンパク質分解に関与しているかどうかを検証するために、TRY及びETC2のC末端配列を取り除いたDNAコンストラクトを作製し、シロイヌナズナに形質転換した。その結果、C末端を取り除いたCPC::TRYΔC:GFPおよびCPC::ETC2ΔC:GFPコンストラクトをシロイヌナズナに導入すると、形質転換体は、それぞれ顕著に根毛数が増加することがわかった。この結果から、C末端配列を取り除いたTRY及びETC2は、根毛形成を促進する機能を獲得することがわかった。また、GFP融合タンパク質の局在を観察したところ、C末端配列の除去により、TRYΔC:GFPおよびETC2ΔC:GFPによる強いGFP蛍光の回復が見られた。以上のことから、TRY及びETC2のC末端配列が、タンパク質分解に関与していることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナのCPCファミリータンパク質の分解機構については、引き続き解析を進める。また、分解機構に関与する、TRY及びETC2タンパク質のC末端アミノ酸のリン酸化の機構についても解析したいと考えている。TRY及びETC2タンパク質のC末端配列から、リン酸化される可能性の高い候補アミノ酸(セリンまたはスレオニン)を特定し、そのアミノ酸をアラニン置換する。アミノ酸置換したTRYまたはETC2のタンパク質分解が抑えられるかどうかを観察することで、重要なアミノ酸を特定する。 リン欠乏培地で育て、根毛数が増加したシロイヌナズナにおける、CPCファミリー(CPC, TRY, ETC1, ETC2, CPL3)および根毛形成制御関連遺伝子群(WER, GL3, EGL3, GL2等)の発現を、Real-Time PCRにより解析する。また、リン欠乏条件でのCPCファミリーpromoter::GUS発現(CPC::GUS, TRY::GUS, ETC1::GUS, ETC2::GUS, CPL3::GUS形質転換体は既に作出)を詳細に観察し、組織特異的な影響についても解析する。 cpc突然変異体あるいは過剰発現体(35S::CPC)のリン欠乏応答について、根毛形成関連遺伝子の発現、および根毛数の増減を中心とした表現型の変化を指標に解析し、CPCによる根毛形成機構がリン酸シグナルの下流に位置するものかどうかさらに確認する。
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