研究実績の概要 |
家畜ふん堆肥(以下,堆肥)に含まれる養分の農業生産への活用は,資源の乏しい日本にとって必要不可欠である.しかし堆肥の単用では,作物が要求する養分すべてを補うことができないため,無機肥料と堆肥を併用した施肥が必要となる.無機肥料と堆肥の併用条件下では,堆肥施用や堆肥抽出物によってリン,カリウムなど養分の植物吸収量等が高まることが知られているが,堆肥の“何”が“どのように機能”して“土壌中で”利用性が高まり,植物の塩類養分吸収が増加するのか未知である.無機肥料と堆肥の併用下における養分の土壌中での移動機構と植物への供給機構を堆肥成分と関連付けながら同時に解明し,養分の利用性を高める堆肥の化学的性質の明確化を目指す.平成28年度は,堆肥中の溶解性有機物による肥料塩類元素の移動量と植物生育や養分吸収量の定量化を試みた.透析膜を用い牛糞堆肥,豚糞堆肥,鶏糞堆肥から溶解性有機物を特異的に回収した.P, K, Ca, Mgを添加した土壌をカラムに詰め,溶解性有機物を含んだ溶液(100mg-C/L)を用いた透水試験を行った.土壌に添加した無機元素量に対する浸透量の割合(浸透率)は,堆肥の種類や元素によって異なった.豚糞堆肥では,いずれの元素の浸透率も対照とした水浸透と大差なかった.牛糞堆肥,鶏糞堆肥では溶解性有機物によってK, Ca, Mg浸透率が1~5%程度高まったが,Pは逆に浸透率が水浸透よりも低くなった.また根域土壌と根域外土壌を特異的に分離したポット栽培試験を行った.根域外にP, K, Ca, Mgを添加した土壌を準備,溶解性有機物を含んだ溶液を根域外土壌に潅水した.溶解性有機物を潅水することで対照とした水潅水よりもコマツナの乾物重が高まる傾向であった.またコマツナの養分吸収量は,堆肥種や元素種によっては,水潅水よりも高まったが,カラム試験の結果と明確な関連はなかった.
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