研究課題/領域番号 |
16K07649
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平舘 俊太郎 九州大学, 農学研究院, 教授 (60354099)
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研究分担者 |
山口 紀子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 上級研究員 (80345090)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非晶質アルミニウム-オルトリン酸化合物 / アルミニウム鉱物-オルトリン酸複合体 / リンの状態分析 / 化学状態変化 / ケミカルシフト値 / 固体核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
施肥履歴が明確な農耕地土壌を試料として選定し、約14テスラの高磁場核磁気共鳴装置により固体P-核磁気共鳴スペクトルを測定した。また、これらのP化合物からアルカリ溶液によって抽出されたPについて液体P-核磁気共鳴スペクトルを測定した。その結果、土壌中のPは、肥料や資材に含まれるP同様、いずれもケミカルシフト値が10~-10ppmの間にピークを示す4配位構造を持っていることが明らかとなった。また、施肥による影響を強く受けた結果P含量が高まっている土壌中においては、Pはより低いケミカルシフト値を示す(高磁場で共鳴する)傾向が見られた。H28年度において標準的な無機P化合物を核磁気共鳴分析した結果から、低いケミカルシフト値で共鳴するこれら土壌中のPは、土壌中のAlによって安定化され水溶解度の低いP化合物であると考えられた。これらのPをアルカリ溶液によって抽出するといずれもオルトリン酸の形態であったことから、肥料として加えられたオルトリン酸化合物は、土壌中のAl化合物と反応し、Al-オルトリン酸の沈殿を生じたか、Al鉱物表面上でオルトリン酸が表面吸着しているものと考えられた。これら土壌中でAlとともに安定化されたPは、非晶質であるためX線回折分析では検出できないと考えられるが、固体核磁気共鳴装置を用いれば、Alとの反応によって高磁場側にケミカルシフト値が動くこと、化学形態が非晶質へと変化するためシグナルが幅広になることなどの変化を捉えることにより、抽出過程を経ることなく、化学形態変化を追跡できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、肥料として土壌に投入される標準的な無機P化合物を収集し、その固体試料については固体P-核磁気共鳴スペクトルを、またそのアルカリ抽出物については液体P-核磁気共鳴スペクトルを測定し、P化合物の化学構造とケミカルシフト値の関係を整理するとともに、ケミカルシフト値と水溶解度あるいは植物利用可能性の関係を推定した。平成29年度は、施肥履歴の明らかな土壌試料を対象に、固体および液体P-核磁気共鳴スペクトルを測定し、平成28年度に得られた知見を適用することによって、土壌中におけるPの化学形態を明らかにした。これまでの研究により、固体および液体核磁気共鳴スペクトルを用いれば、土壌中に加えられたPの化学形態変化を追うことが可能であることが示され、本研究手法の有用性が確かめられた。 本研究の全体計画からみれば、当初の計画通りに順調進捗していると考えられる。本研究が進む中で、Pをとりまく化学構造が明らかになっていない肥料資材である「ようりん」については、大きなヒントが得られたが、核磁気共鳴スペクトルだけでは仮説にすぎないため、X線吸収微細構造解析など他の分析手法による追加実験を行った。H30年度は、これらのデータを含めて解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進捗しており、最終年度である平成30年度を迎えるにあたり、研究の推進方向の大幅な変更は必要ないと考えている。すなわち、平成30年度は、計画通り、Pを含む肥料や資材などを土壌に添加し、これらの試料を対象に固体P-核磁気共鳴スペクトルを測定することによって、土壌中におけるPの化学形態変化を明らかにする計画である。 一方で、追加的な実験は、可能であれば挑戦したいと考えている。平成29年度は栃木県下の農耕地土壌を用いたが、土壌の性質は日本国内であっても多様であるため、他の地域での土壌についても固体P-核磁気共鳴スペクトルを測定したいと考えている。具体的には、(1)Pの施肥履歴が明らかになっている草地土壌およびそれに隣接する林地土壌の比較、(2)施肥履歴はないが海鳥の営巣活動によってPが蓄積している土壌、については本研究手法を適用したい。また、Pをとりまく化学構造が明らかになっていない肥料資材である「ようりん」について解析を進め、必要であればさらなる追加実験を行い、より確かデータを得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、施肥履歴の明確な土壌試料を非常に順調に収集できた.これは,研究協力者である栃木県農業試験場の大島正稔研究員が,農業現場における土壌情報を把握しており,施肥履歴の明確な土壌試料を効率的に収集できたためである。このため、当初予定していた土壌試料を収集・調製するための費用を低く抑えることができた。また,ようりん(熔成りん肥)のP-核磁気共鳴スペクトルの帰属を行うためのX線吸収微細構造解析においても順調に試料を調製できたため,支出を低く抑えることができた. 平成30年度は,Pを含む肥料や資材などを土壌に添加し、これらの試料を対象に固体P-核磁気共鳴スペクトルを測定することによって、土壌中におけるPの化学形態変化のプロセスを時系列を追って明らかにする計画であったが、使用額に余裕が生じたため、とくに火山灰土壌中においてリン動態に大きな影響を及ぼしていると考えられている粘土鉱物アロフェンにも注目し,アロフェンおよびアロフェン‐リン酸複合体を調製し,その固体P-核磁気共鳴スペクトルの測定を行う研究を追加して実施したい.この研究により,火山灰土壌中におけるリンの化学形態変化の実態に迫ることができると期待される.
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