本研究は、様々な生命活動により生体内で発生する過酸化水素(HP)が、土壌や生体中で容易に酸素に転換されて根圏での生命活動全般に利用されうることに着目して、「根からのHP漏出性は当該植物に固有の耐湿性能に影響を与えている」との仮説を設定し、これを検証することを目的とする。2019年度は、過年度までに実施した試験結果に基づき、酸化還元指示薬を用いた根圏HP漏出の可視化に対してかく乱要因となり得る微生物活動の影響解析を実施した。 粉砕したシリカヒドロゲルにプルシアンブルー(PB)を固定した湛水培地を用い、一定の養分・温度・光環境で1週間培養した際の、青色から無色への色調変化を指標として調査した。幼植物根の有無に応じて色調変化に顕著な差が生じ、無色化には植物組織の存在が必須であることを確認した。ただし乾燥植物の粉砕物を当該培地に投入した場合も同様の色調変化を認めることから、微生物と植物組織との相互作用が色調変化をもたらすことが示された。 PBの色調変化は当該物質の分解を伴わない可逆的な変化であり、アスコルビン酸などの還元性有機酸を投入すると無色化(還元)し、その後HPの投入により色調が回復(酸化)する。当該培地を用いて過年度までに実施した試験においても、培地全体の無色化の進行と同時並行的に、幼植物根およびその近傍における色調回復が観察された。以上のことから、当該培地を用いた手法は、植物根からのHP漏出性と根圏に於ける微生物の活動性との相互作用を可視化する上で有効であると推察された。
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