研究課題/領域番号 |
16K07654
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三井 久幸 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (40261466)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鉄硫黄タンパク質 / 共生窒素固定 / 根粒菌 |
研究実績の概要 |
アルファプロテオバクテリアの代表種であるSinorhizobium melilotiは、アルファルファ等のマメ科植物との共生窒素固定能を有し、この特徴はマメ科植物との共進化の結果である。このバクテリアの鉄硫黄クラスター生合成装置をコードするsuf遺伝子クラスターには、新規遺伝子sufTが含まれている。sufTは、広く原核生物と真核生物に保存されている機能不明ドメインDUF59からなり、その欠失変異株は、鉄飢餓条件への感受性増大や数種類の鉄硫黄酵素の活性低下といった生物に普遍的な性質への影響のみならず、根粒菌独自の性質である共生窒素固定能の欠損を示す。更に、包括的鉄制御因子RirAの欠損が、sufT欠失変異がもたらす多くの表現型をサプレスすることから、SufTは、S. meliloti細胞内の生理的な低鉄レベル条件下において、必要な鉄硫黄タンパク質を供給するのに必要な役割を果たしていると推定される。しかも、他のsuf遺伝子とは異なり、sufTの発現はヒートショックシグマ因子RpoH1による制御を受けることから、細胞がストレス環境に置かれる際に鉄硫黄タンパク質の生合成を補強する役割も考えられる。本研究では、原核生物と真核生物の両方にわたって保存されているDUF59の機能解明において、S. melilotiのsufTの解析が有効であると見なしている。 平成29年度は、sufTの発現制御を行うRpoH1の機能調節機構の解析を重点的に進めた。定量的Western blotting解析の結果、細胞内のRpoH1はヒートショック処理の間も一定レベルを維持することを見つけた。すなわち、RpoH1が誘導するストレス応答が、その活性の上昇が原因であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Sinorhizobium melilotiにおいて、sufT遺伝子の発現制御をつかさどるシグマ因子RpoH1の機能の制御機構について意義深い知見を得ることができた。一方、当初予定していた、細胞内の各種鉄硫黄タンパク質における鉄硫黄クラスター含有率に及ぼすsufT変異の影響の解析については、S. melilotiゲノム上の各遺伝子を、FLAGタグを付加した遺伝子に置換することができたが、それを用いた鉄硫黄クラスター含有率の解析は中途で終わった。細胞破砕の条件検討に時間を要したのが主な原因である。また、RpoH1が発現制御する、SufTと関連する他遺伝子の探索のために、RpoH1機能亢進変異株のRNA-seq解析を目論んでいたが、その変異株の作製が中途で終わった。次年度にそれぞれの解析を継続し、目的を達成したい。
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今後の研究の推進方策 |
Sinorhizobium meliloti細胞内の鉄硫黄タンパク質合成におけるSufTの機能解明に向け、異なる構造の鉄硫黄クラスター(2Fe-2S; 3Fe-4S; 4Fe-4Sなど)ないし機能(触媒;電子伝達;センサー機能など)を有する多様なタンパク質の鉄硫黄クラスター含有量の定量系を確立し、解析を進める。また、SufTがSUFシステムのどの部分に関与するのか知見を得るために、SufTと他Sufコンポーネント(SufB, SufC, SufD, SufA)との間でYeast Two-hybrid解析を実施する。それらの成果をもって、SufTないし普遍的なDUF59の機能解明、およびそれが共生窒素固定に果たす役割の解明に役立てる。更に、シャペロンgroESL1の変異に基づくRpoH1機能亢進変異株のRNA-seq解析を実施し、S. melilotiのストレス応答レギュロンの内のSufT機能関連ネットワークの解明を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に計画していたRNA-seq解析を次年度に持ち越したため、それに必要な試薬の購入費に相当する金額が生じた。その解析に必要なRpoH1機能亢進変異株の作製は現在進みつつある。また、細胞内タンパク質の鉄硫黄クラスター含有量定量計画の準備も進んでいる。次年度に、RNA-seq解析、鉄硫黄クラスター定量解析(55Feラジオアイソトープを含む)を実施すべく助成金を使用する計画である。
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